・・・僕は「新潮」の「人の印象」をこんなに長く書いた事はない。それが書く気になったのは、江口や江口の作品が僕等の仲間に比べると、一番歪んで見られているような気がしたからだ。こんな慌しい書き方をした文章でも、江口を正当に価値づける一助になれば、望外・・・ 芥川竜之介 「江口渙氏の事」
・・・によって復活し、文壇の「新潮」は志賀直哉の亜流的新人を送迎することに忙殺されて、日本の文壇はいまもなお小河向きの笹舟をうかべるのに掛り切りだが、果してそれは編輯者の本来の願いだろうか、小河で手を洗う文壇の潔癖だろうか。バルザックの逞しいあら・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・ まず「新潮」八月号の「聴雨」からですが、高木卓氏が終りが弱いといわれるのも、あなたが題が弱いといわれるのも、つまりは結びの一句が「坂田は急ににこにこした顔になった。そうして雨の音を聞いた」となっていることをいわれたのであろうと思います・・・ 織田作之助 「吉岡芳兼様へ」
・・・亦、『新ロマン派』十二月号にも拙作に関する感想をお洩しになったこと、『新潮』一月号掲載の貴作中、一少女に『春服』を携えさせたこと等、あなたの御心づかいを伝えてくれました。早速、今日、街の五六軒の本屋をまわって、二誌を探したのですが、『新潮』・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・ それから郵便局に行き、「新潮」の原稿料六十五円を受け取って、市場に行ってみた。相変らず、品が乏しい。やっぱり、また、烏賊と目刺を買うより他は無い。烏賊二はい、四十銭。目刺、二十銭。市場で、またラジオ。 重大なニュウスが続々と発表せ・・・ 太宰治 「十二月八日」
・・・私はこの雑誌「新潮」に、明後日までに二十枚の短篇を送らなければならぬので、今夜これから仕事にとりかかろうと思っていたのだが、私は、いまは、まるで腑抜けになってしまっている。腹案は、すでにちゃんとできていて、末尾の言葉さえ準備していた。六年ま・・・ 太宰治 「俗天使」
・・・ 私は変人に非ず 先月号の小説新潮の、文壇「話の泉」の会で、私は変人だと云うことになっているし、なにか縄帯でも締めているように思われている。また私の小説もただ風変わりで珍らしい位に云われてきて、私はひそかに憂鬱な気持・・・ 太宰治 「わが半生を語る」
・・・ 徳永直氏が十一月号『新潮』に「ルポルタアジュと記録文学」という評論を書いている。氏が、尾崎、榊山氏のルポルタージュに自己感傷の過度を批難しながら、林房雄氏のレトリックに触れないことは読者にとっては不思議のようである。「太陽のない街」を・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・そして『新潮』に発表した。「鏡餅」はこんどはじめてこの本に集録された。一九三〇年の暮日本プロレタリア作家同盟に参加し、「小祝の一家」あたりから、進歩的な作家としての作品が少しずつかかれるようになった。「乳房」は、プロレタリア文学の運動に参加・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第四巻)」
・・・それを書きあげて、『新潮』へ送ってほとんど間もなく、すっかり仕事が中断されたわけです。府中へは私もひどい風をひいたとき行きそうになって、おやめになったそうです。 私が伺ってあげた読書のプランについてのお考えはいかがですか。少くとも文学に・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
出典:青空文庫