・・・私は第四階級以外の階級に生まれ、育ち、教育を受けた。だから私は第四階級に対しては無縁の衆生の一人である。私は新興階級者になることが絶対にできないから、ならしてもらおうとも思わない。第四階級のために弁解し、立論し、運動する、そんなばかげきった・・・ 有島武郎 「宣言一つ」
・・・ここまでいうと「有島氏が階級争闘を是認し、新興階級を尊重し、みずから『無縁の衆生』と称し、あるいは『新興階級者に……ならしてもらおうとも思わない』といったりする……女性的な厭味」と堺氏の言った言葉を僕自身としては返上したくなる。 次に堺・・・ 有島武郎 「片信」
・・・これ実に新興文芸の第一声であって、天下の青年は翕然として文学の冒険に志ざした。 当時の記憶は綿々として憶浮べるままを尽くいおうとすれば限りがない。その頃一と度は政治家たらんと欲し、転じて建築に志ざし、再転して今度は実業界に入ろうとした一・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・ 以上を要約するに、現実に立脚した、奔放不覊なる、美的空想を盛り、若しくは、不可思議な郷土的な物語は、これを新興童話の名目の下に、今後必ずや発達しなければならぬ機運に置かれています。いまの児童の読物のあまりに杜撰なる、不真面目なる、・・・ 小川未明 「新童話論」
・・・しかるに、指導的立場にあるものゝ無自覚と産業機関の合理化は、新興文学の出現とその発達を拒んでいます。 しかし、このことも、幾千万児童の精神文化の問題であり、次代の新社会建設を約束するものなるが故に、解放の暁が迫っています。ひとり搾取の対・・・ 小川未明 「近頃感じたこと」
・・・都会の新興文学を思うにつけて、私達は、田園の新興文学を思わざるを得ない。 小川未明 「街を行くまゝに感ず」
・・・これが、自然主義作家でも田山花袋とは異なるところで、より多く、新興ブルジョアジーのイデオロギーを反映していたあとが見られる。そして、独歩自身は多く窮迫の生活をしたにかゝわらず、階級的には支配階級の立場に立っていた。その階級的制約が、水兵たち・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・その神経は、まるで新興成金そっくりではないか。 またある座談会で太宰君の「斜陽」なんていうのも読んだけど、閉口したな。なんて言っているようだが、「閉口したな」などという卑屈な言葉遣いには、こっちのほうであきれた。 どうもあれには閉口・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・ もしこの二種類の競争すなわち圏の内外に互に競争が同時に起るとすると、向後吾人の受くる作物は、この両個の刺激からして、在来のはますます在来の方向で深く発達したもの、新興のは新興の領分で出来得る限りを開拓して変化を添えるようなものになる。・・・ 夏目漱石 「文壇の趨勢」
・・・旧いブルジョア文学にはあき足らず、しかし、無産派文学には共感のもてない小市民的要素のきつい若い作家たちが、新感覚派や新興文学派のグループにかたまった。 文学におけるリアリズムの歴史としてみれば、この時代から、日本のブルジョア・リアリズム・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第三巻)」
出典:青空文庫