出典:青空文庫
・・・かくて新陳代謝する。種保存の本能が、大いに活動しているときは、自己保存の本能は、すでにほとんどその職分をとげているはずである。果実をむすばんがためには、花はよろこんで散るのである。その児の生育のためには、母はたのしんでその心血をしぼるのであ・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・ 而して此一致・合同は、常に自己保存が種保存の基礎たり準備たることに依て行われる、豊富なる生殖は常に健全なる生活から出るのである、斯くて新陳代謝する、種保存の本能大に活動せるの時は、自己保存の本能は既に殆ど其職分を遂げて居る筈である、果・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・電車は新陳代謝して、ますます混雑を極める。それにもかかわらず、かれは魂を失った人のように、前の美しい顔にのみあくがれ渡っている。 やがてお茶の水に着く。五 この男の勤めている雑誌社は、神田の錦町で、青年社という、正則英語・・・ 田山花袋 「少女病」
・・・今ヤ日ニ従テ新陳代謝シ四方ヨリ風ヲ臨ンデ集リ来レルモノ多シ。曾テ都下狭斜ノ巷ニ在テ左褄ヲ取リシモノ亦無シトセズト。予之ヲ聞イテ愕然タリ。其ノ故ハ何ゾヤ。疇昔余ノ風流絃歌ノ巷ニ出入セシ時ノコトヲ回顧スルニ、当時都下ノ絃妓ニハ江戸伝来ノ気風ヲ喜・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・そうして、かように区別し得る程度において明暸なる意識が、新陳代謝すると見ると、甲が去って乙が来ると云う順序がなければならぬはずであります。順序があるからには甲乙が共に意識せられるのではない。甲が去った後で、乙を意識するのであるから、乙を意識・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・「わが肉は新陳代謝はげしく」などにもり上りほとばしる感情の勁靭さ、豊富さと清潔さとには、気持よい水しぶきで顔をうたれるような悦びがある。私は凍らず天をみない落差ます/\はげしく一樹なく人工の浪漫なくおもむきなく世の規・・・ 宮本百合子 「『静かなる愛』と『諸国の天女』」