・・・三角な茎をさいて方形の枠形を作るというむつかしい幾何学の問題を無意識に解いて、そしてわれわれの空間の微妙な形式美を味わっている事には気がつかないでいた。相撲取草を見つけて相撲を取らせては不可解な偶然の支配に対する怪訝の種を小さな胸に植えつけ・・・ 寺田寅彦 「芝刈り」
・・・また方形の広い池を穿っているのは養魚を業としているものであろう。 突然、行手にこんもりした樹木と神社の屋根が見えた。その日深川の町からここに至るまで、散歩の途上に、やや年を経た樹木を目にしたのはこれが始めてである。道は辻をなし、南北に走・・・ 永井荷風 「元八まん」
・・・敷石道の左右は驚くほど平かであって、珠の如く滑かな粒の揃った小石を敷き、正方形に玉垣を以て限られた隅々に銅の燈籠を数えきれぬほど整列さしてある。第二の門内に這入ると地盤が一段高くしてあって第一と同じ形式の唯だ少しく狭い平地は直様霊廟を戴く更・・・ 永井荷風 「霊廟」
・・・ 必要な掘鑿は、長四方形に川岸に沿うて、水面下六十尺の深さに穴を明ける仕事であった。 だから、捲上の線は余分な土や岩石を掘り取らないように、四十五度以上にも峻嶮に、川上と川下とから穴の中に辷り込んでいた。そして、それはトロッコの線路・・・ 葉山嘉樹 「坑夫の子」
出典:青空文庫