・・・その割れ目は、飛び越すことも、また、橋を渡すこともできないほど隔たりができて、しかも急流に押し流されるように、沖の方方へだんだんと走っていってしまったのであります。 三人は、手を挙げて、声をかぎりに叫んで、救いを求めました。陸の方に近い・・・ 小川未明 「黒い人と赤いそり」
・・・ お月様のいい時には、貴方方のねていらっしゃる夜でも森をこして行きました。B 提灯もなくって? 案内者もつれずに?旅 そんなもののないのがあたり前なのです。ついて居る道さえ見失わなければいつかは人里に行けます。 或時は、・・・ 宮本百合子 「旅人(一幕)」
・・・と云って、杯を手に取ると、方方から手が出て、杯を取る。割箸を取る。盛んに飲食が始まった。しかし話はやはり時候の挨拶位のものである。「どうです。こう天気続きでは、米が出来ますでしょうなあ」「さようさ。又米が安過ぎて不景気と云うような事になるで・・・ 森鴎外 「百物語」
出典:青空文庫