・・・(この点は、単に予報のみの問題に限らず一般科学教育を施す人の注意すべき点なるべしと信ず。中学校にて始めて物理学を学ぶ際に「何故にかくのごとく考えざるべからざるか」との疑問が暗々裡に学生の脳裡に起りて何人もこれが解決を与えざるが故に、力と云い・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・ たとえば、昔の日本人が集落を作り架構を施すにはまず地を相することを知っていた。西欧科学を輸入した現代日本人は西洋と日本とで自然の環境に著しい相違のあることを無視し、従って伝来の相地の学を蔑視して建てるべからざる所に人工を建設した。そう・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・、等々々についてもそれぞれ同様な夢の推移径路に関すると同様の試験的分析を施すことは容易である。 こういうふうの意味でのアタヴィズムはむしろあるところまでは避くべからざることであるのはもちろん、連句の進行上少しも規約的に不都合なことはない・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・ 最初河水の汎濫を防ぐために築いた向島の土手に、桜花の装飾を施す事を忘れなかった江戸人の度量は、都会を電信柱の大森林たらしめた明治人の経営に比して何たる相違であろう。 巴里の人たちは今でも日曜日には家族を引連れて郊外の青草の上で葡萄・・・ 永井荷風 「夏の町」
・・・その代り河水はいつも濁って澄むことなく、時には臭気を放つことさえあるようになったのも、事に一利あれば一害ありで施すべき道がないものと見える。浅草の観音菩薩は河水の臭気をいとわぬ参詣者にのみ御利益を与えるのかも知れない。わたくしは言問橋や吾妻・・・ 永井荷風 「水のながれ」
・・・実際田舎者の精神に、文明の教育を施すと、立派な人物が出来るんだがな。惜しい事だ」「そんなに惜しけりゃ、あれを東京へ連れて行って、仕込んで見るがいい」「うん、それも好かろう。しかしそれより前に文明の皮を剥かなくっちゃ、いけない」「・・・ 夏目漱石 「二百十日」
・・・世間が余の辞退を認むるか、または文部大臣の授与を認むるかは、世間の常識と、世間が学位令に向って施す解釈に依って極まるのである。ただし余は文部省の如何と、世間の如何とにかかわらず、余自身を余の思い通に認むるの自由を有している。 余が進んで・・・ 夏目漱石 「博士問題の成行」
・・・ゆる長袖の身分たらんこと、これまた我が輩の祈るところにして、これを要するに、学問をもって政事の針路に干渉せず、政事をもって学問の方向を妨げず、政事と学権と両立して、両ながら、その処を得せしめなば、政を施すにも易く、学を勉むるにも易くして、双・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・世の士君子、もしこの順席を錯て、他に治国の法を求めなば、時日を経るにしたがい、意外の故障を生じ、不得止して悪政を施すの場合に迫り、民庶もまた不得止して廉恥を忘るるの風俗に陥り、上下ともに失望して、ついには一国の独立もできざるにいたるべし。古・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・その醜を変じて美となすべきの術あれば、その術を求めてこれを施すもまた人情なり。 ここにおいてか貧困を救助し、文盲を教育する者あり。これを仁人君子と称す。仁人君子は、我が利害を棄てて人のためにし、我に損して他に益すというといえども、その実・・・ 福沢諭吉 「教育の目的」
出典:青空文庫