・・・例えば小児が腹痛すればとて例の妙薬黒焼など薬剤学上に訳けの分らぬものを服用せしむ可らず、事急なれば医者の来るまで腰湯パップ又は久しく通じなしと言えば灌腸を試むる等、外用の手当は恐る/\用心して施す可きも、内服薬は一切禁制にして唯医者の来診を・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・ たとえば日本士族の帯刀はおのずからその士人の心を殺伐に導き、かつまた、その外面も文明の体裁に不似合なればとて、廃刀の命を下したるが如く、政治上に断行して一時に人心を左右するは劇薬を用いて救急の療法を施すものに等しく、はなはだ至当なりといえ・・・ 福沢諭吉 「政事と教育と分離すべし」
・・・ゆえにかの士君子も、天与の自由を得て、その素志を施すものというべし。また我が党の士、幽窓の下におりて、秋夜月光に講究すること、旧日に異なることなきを得て、修心開知の道を楽しみ、私に済世の一斑を達するは、あにまた天与の自由を得るものといわざる・・・ 福沢諭吉 「中元祝酒の記」
・・・また、草木に施す肥料の如き、これに感ずるおのおの急緩の別あり。野菜の類は肥料を受けて三日、すなわち青々の色に変ずといえども、樹木は寒中これに施してその効験は翌年の春夏に見るべきのみ。 いま人心は草木の如く、教育は肥料の如し。この人心に教・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・ 然らば即ち敬愛は夫婦の徳にして、この徳義を修めてこれを今日の実際に施すの法如何と尋ぬるに、夫婦利害を共にし苦楽喜憂を共にするは勿論、あるいは一方の心身に苦痛の落ち来ることもあれば、人力の届く限りはその苦痛を分担するの工風を運らさざるべ・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・「わしがいなんだら、誰がお前らに恩を施すぞ!」「恩恩って、大っきな声でぬかすな! 手前とこが有るばっかしで、俺とこまで穢しやがって、そんな恩施しなら、いつなと持っていけ!」 勘次は怒りのために慄え出した。と、彼は黙って秋三の顔を・・・ 横光利一 「南北」
出典:青空文庫