・・・「私も一つ、日参でもして見ようか。こう、うだつが上らなくちゃ、やりきれない。」「御冗談で。」「なに、これで善い運が授かるとなれば、私だって、信心をするよ。日参をしたって、参籠をしたって、そうとすれば、安いものだからね。つまり、神・・・ 芥川竜之介 「運」
・・・ 我に反るようになってから、その娘の言うのには、現の中ながらどうかして病が復したいと、かねて信心をする湯島の天神様へ日参をした、その最初の日から、自分が上がろうという、あの男坂の中程に廁で見た穢ない婆が、掴み附きそうにして控えているので・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・それというのも奴さんも奴さんだが、奴さんのおふくろというのが俗にいう女傑なんで、あれでもなしこれでもなしとさまざま息子の嫁を探したあげく、到頭奴さんの勤めている工場の社長の家へ日参して、どうぞお宅のお嬢さんを伜の嫁にいただかせて下さいと、百・・・ 織田作之助 「天衣無縫」
・・・馬をとられた三次の女房の発狂にしろ、気が違った女房が役場に日参しているという現実の報告で終っている。現実の非惨事のこれだけの現象主義的把握は一応大衆作家でもやるのである。われわれに必要なのは、そのようにして女房まで発狂させられた三次が、戦争・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
出典:青空文庫