・・・遮らなければならない日射は、扇子を翳されたものである。従って、一門の誰かれが、大概洋傘を意に介しない。連れて不忍の蓮見から、入谷の朝顔などというみぎりは、一杯のんだ片頬の日影に、揃って扇子をかざしたのである。せずともいい真似をして。……勿論・・・ 泉鏡花 「栃の実」
・・・が、砂浜に鳥居を立てたようで、拝殿の裏崕には鬱々たるその公園の森を負いながら、広前は一面、真空なる太陽に、礫の影一つなく、ただ白紙を敷詰めた光景なのが、日射に、やや黄んで、渺として、どこから散ったか、百日紅の二三点。 ……覗くと、静まり・・・ 泉鏡花 「伯爵の釵」
・・・ 真蔵は銘仙の褞袍の上へ兵古帯を巻きつけたまま日射の可い自分の書斎に寝転んで新聞を読んでいたがお午時前になると退屈になり、書斎を出て縁辺をぶらぶら歩いていると「兄様」と障子越しにお清が声をかけた。「何です」「おホホホホ『何で・・・ 国木田独歩 「竹の木戸」
・・・ひさしと縁側を設けて日射と雨雪を遠ざけたりしているのでも日本の気候に適応した巧妙な設計である。西洋人は東洋暖地へ来てやっとバンガローのベランダ造りを思いついたようである。 障子というものがまた存外巧妙な発明である。光線に対しては乳色ガラ・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
出典:青空文庫