・・・ 小暇を得て、修善寺に遊んだ、一――新聞記者は、暮春の雨に、三日ばかり降込められた、宿の出入りも番傘で、ただ垂籠めがちだった本意なさに、日限の帰路を、折から快晴した浦づたい。――「当修善寺から、口野浜、多比の浦、江の浦、獅子浜、馬込崎と・・・ 泉鏡花 「半島一奇抄」
・・・とは、実際、何とか工面をしなければならないのだ、「必らず御心配はかけませんが、青木さんの方が成り立っていても、今月一杯はかかるんでしたから――そこいらの日限は、どうか、よろしく」と、念を押した。「それはもちろんのことです」主人はちょっと・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・と言いかけて、メロスは足もとに視線を落し瞬時ためらい、「ただ、私に情をかけたいつもりなら、処刑までに三日間の日限を与えて下さい。たった一人の妹に、亭主を持たせてやりたいのです。三日のうちに、私は村で結婚式を挙げさせ、必ず、ここへ帰って来ます・・・ 太宰治 「走れメロス」
・・・研究題目は上長官の命令で決まっており、その上に始めから日限つきでその日までにはどうでも目鼻をつけなければならないこともある。実におそらく最も不自由な場合であるが、面白いことには、学者によってはこの狭い天地の中でさも愉快そうに自由自在に活動し・・・ 寺田寅彦 「学問の自由」
・・・第二条 土地ハ一切ノ賠償ナクシテ今日限リ全労働大衆ノ使用ニ帰スルモノトス。 ツァー、貴族、教会、地主、富農の土地は没収された。面積一億デシャチン、価格百三十億金ルーブリの耕地が「十月」によって確実に農民の手にわたった。 ところが・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ということで、その答を日限までに持って来なければ果し合いをするという条件であった。ガラハートは当惑してあちらこちらと彷徨った。女が一番欲しいというのは何であろう。大金持の夫であろうか。それとも無類に美しい容貌の夫であろうか。或はやさしく真実・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・次いで元文四年三月二日に、「京都において大嘗会御執行相成り候てより日限も相立たざる儀につき、太郎兵衛事、死罪御赦免仰せいだされ、大阪北、南組、天満の三口御構の上追放」ということになった。桂屋の家族は、再び西奉行所に呼び出されて、父に別れを告・・・ 森鴎外 「最後の一句」
出典:青空文庫