・・・と云われても、どこにどんな鳥がいるのか明き盲の自分にはちっとも見えない。しかし「胸黒じゃ」などと彼は独り合点をしているのである。水平に持って歩いていた網を前下がりに取り直し、少し中腰になったまま小刻みの駆け足で走り出した。直径百メートルもあ・・・ 寺田寅彦 「鴫突き」
俗に明き盲というものがあります。両の目は一人前にあいていながら、肝心の視神経が役に立たないために何も見る事ができません。またたとい目明きでも、観察力の乏しい人は何を見てもただほんの上面を見るというまでで、何一つ確かな知・・・ 寺田寅彦 「夏の小半日」
・・・ その頃には鳥は大切(明き盲になってからの事である。その何とも云えない滑稽な芝居を遠くの方から眺めると、大小四人が鶏を相手に遊んで居る様である。 又、実際一日中追い立て追い立て仕事にいそがしい女中や清子は、この位の公然な遊戯時間でも・・・ 宮本百合子 「二十三番地」
出典:青空文庫