・・・ 十「あの白犬が病みついたのは、――そうそう、田宮の旦那が御見えになった、ちょうどその明くる日ですよ。」 お蓮に使われていた婆さんは、私の友人のKと云う医者に、こう当時の容子を話した。「大方食中りか何か・・・ 芥川竜之介 「奇怪な再会」
・・・ さて明くる日になって見ると、成程祖母の願がかなったか、茂作は昨日よりも熱が下って、今まではまるで夢中だったのが、次第に正気さえついて来ました。この容子を見た祖母の喜びは、仲々口には尽せません。何でも稲見の母親は、その時祖母が笑いながら・・・ 芥川竜之介 「黒衣聖母」
・・・ さて明くる日になると約束通り、田舎者の権助は番頭と一しょにやって来ました。今日はさすがに権助も、初の御目見えだと思ったせいか、紋附の羽織を着ていますが、見た所はただの百姓と少しも違った容子はありません。それが返って案外だったのでしょう・・・ 芥川竜之介 「仙人」
・・・ さて日本橋の家へ帰って、明くる日起きぬけに新聞を見ると、果して昨夜竪川に身投げがあった。――それも亀沢町の樽屋の息子で、原因は失恋、飛びこんだ場所は、一の橋と二の橋との間にある石河岸と出ているのです。それが神経にこたえたのでしょう。新・・・ 芥川竜之介 「妖婆」
・・・、お水を一口という息切のする女が、とても不可ません、済ないこッてすがせめてお一人だけならばと、張も意気地もなく母親の帯につかまって、別際に忍泣に泣いたのを、寝ていると思った父親が聞き取って、女が帰って明くる日も待たず自殺した。 報知を聞・・・ 泉鏡花 「葛飾砂子」
・・・ また明くる日の晩方になりますと、その音が聞こえてきました。その音は、にぎやかな感じのするうちに、悲しいところがありました。そして、そのほかのいろいろの音色から、独り離れていて、歌をうたっているように思われました。で、ここまで聞こえてく・・・ 小川未明 「青い時計台」
・・・四 明くる日、露子は窓によって、赤い船はいまごろどこを航海していようかと思っていますと、ちょうどそこへ一羽のつばめが、どこからともなく飛んできました。 露子は、つばめに向かって、「おまえは、どこからきたの。」と聞・・・ 小川未明 「赤い船」
・・・ その明くる日、おじいさんは気分が悪くなって床につくと、すやすやと眠るように死んでしまいました。いいおじいさんをなくして、村人は悲しみました。そうして、懇ろにおじいさんを葬って、みんなで法事を営みました。「ほんとうに、だれからでも慕・・・ 小川未明 「犬と人と花」
・・・ 彼は、がっかりしました。 明くる日も、また明くる日も、少年は、旅をつづけたのであります。 春の日の雨催しのする暖かな晩方でありました。少年は、疲れた足を引きずりながら、ある古びた町の中にはいってきました。 その町には、昔か・・・ 小川未明 「海のかなた」
・・・ 明くる日の昼ごろ、正雄さんは、海辺へいってみますと、いつのまにやら、昨日見た空色の着物を着た子供がきていまして、「や、失敬っ。」と声をかけて駆け寄り、「君にこれをやろうと思って拾ってきたよ。」と、それはそれはきれいな真珠や、さ・・・ 小川未明 「海の少年」
出典:青空文庫