・・・「母親恋しくは思わずや」紀州の顔見つつ問いぬ。この問を紀州の解しかねしようなれば。「永く我家にいよ、我をそなたの父と思え、――」 なおいい続がんとして苦しげに息す。「明後日の夜は芝居見に連れゆくべし。外題は阿波十郎兵衛なる由・・・ 国木田独歩 「源おじ」
・・・ 兎も角も明後日からお秀は局に出ることに話を極めてお富に約束したものの、忽ち衣類の事に思い当って当惑した。若い女ばかり集まる処だからお秀の性質でもまさかに寝衣同様の衣服は着てゆかれず、二三枚の単物は皆な質物と成っているし、これには殆ど当・・・ 国木田独歩 「二少女」
・・・で、明日来りゃ、明後日だ。」「いえ、ほんとに明日、――明日待ってます。」 四 雪は深くなって来た。 炊事場へザンパンを貰いに来る者たちが踏み固めた道は、新しい雪に蔽われて、あと方も分らなくなった。すると、子供達は・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
・・・ところをも究め、武蔵禰乃乎美禰と古の人の詠みけんあたりの山々をも見んなど思いしことの数次なりしが、ある時は須田の堤の上、ある時は綾瀬の橋の央より雲はるかに遠く眺めやりし彼の秩父嶺の翠色深きが中に、明日明後日はこの身の行き徘徊りて、この心の欲・・・ 幸田露伴 「知々夫紀行」
・・・その乗券の価を問うにほとんど嚢中有るところと相同じければ、今宵この地に宿りて汽車賃を食い込み、明日また歩み明後日また歩み、いつまでも順送りに汽車へ乗れぬ身とならんよりは、苦しくとも夜を罩めて郡山まで歩み、明日の朝一番にて東京に到らん方極めて・・・ 幸田露伴 「突貫紀行」
・・・期日は、明後日正午まで。稿料一枚、二円五十銭。よきもの書け。ちかいうちに遊びに行く。材料あげるから、政治小説かいてみないか。君には、まだ無理かな? 東京日日新聞社政治部、小泉邦録。」「謹啓。一面識ナキ小生ヨリノ失礼ナル手紙御読了被下度候・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・に、明後日までに二十枚の短篇を送らなければならぬので、今夜これから仕事にとりかかろうと思っていたのだが、私は、いまは、まるで腑抜けになってしまっている。腹案は、すでにちゃんとできていて、末尾の言葉さえ準備していた。六年まえの初秋に、百円持っ・・・ 太宰治 「俗天使」
・・・あなたはまだごぞんじないかも知れないが明後日、馬場と僕と、それから馬場が音楽学校の或る先輩に紹介されて識った太宰治とかいうわかい作家と、三人であなたの下宿をたずねることになっているのですよ。そこで雑誌の最後的プランをきめてしまうのだとか言っ・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
明後日は自分の誕生日。久々で国にいるから祝の御萩を食いに帰れとの事であった。今日は天気もよし、二、三日前のようにいやな風もない。船も丁度あると来たので帰る事と定める。朝飯の時勘定をこしらえるようにと竹さんに云い付ける。こん・・・ 寺田寅彦 「高知がえり」
・・・明後日が初酉の十一月八日、今年はやや温暖く小袖を三枚重襲るほどにもないが、夜が深けてはさすがに初冬の寒気が感じられる。少時前報ッたのは、角海老の大時計の十二時である。京町には素見客の影も跡を絶ち、角町には夜を警めの鉄棒の音も聞える。・・・ 永井荷風 「里の今昔」
出典:青空文庫