・・・「単純な、明快な言葉で判りよく、しかも芸術的な」作品が翹望されている。そのような作品に対する評価の点では諸氏の意見が大体一致しつつ、その点を一層具体的にするような討論が伸びず、ひるがえって、一方で、現在それらの人々の関心をひいている問題の具・・・ 宮本百合子 「新年号の『文学評論』その他」
・・・そこまで万遍なく明快であろうか。まだまだそこまでが一般水準とは言えない。どうも、百姓が米を出さないからじゃないか、というところへ流れよりそうである。 そうなったとき、農村ではどうかと想像してみる。農村とても、決して平穏に彼等の拒絶をしか・・・ 宮本百合子 「人民戦線への一歩」
・・・プロレタリア文学の作品が多様化すればするほど、ますます確乎とした階級的基準にたって実にいきいきと、明快に、健康に、それぞれの作品の社会的意味を階級の歴史の発展との連関において積極的にせんめいする批評の必要が増して来ていることを痛感するのであ・・・ 宮本百合子 「近頃の感想」
・・・布地にでも例えると、茶色っぽい綿モスリンのような雰囲気――つまり、どんなに燈灯が軒なみに輝いても、それを明快にキラキラ反映させる何かが無い、明るさを吸い込んでしまう。そんな心持がする。奇妙なことに、私は牛込区という名をきくと、決して神楽坂ば・・・ 宮本百合子 「茶色っぽい町」
・・・その明快な自分を傍観する彼は、如何に私が幸福だからと云って、自分をも亦幸福にする事は出来ないのだ。 どんな心持で、私は、愛する者と偕に棲み、偕に仕事をする自分を見る事だろう。 愛する者よ、自分は又、自分の殆ど不可抗の無力を犇々と感じ・・・ 宮本百合子 「日記・書簡」
・・・ この質問に対して明快に返答することは、こんにちの学習院の先生にとっても生徒にとっても、おそらく非常に困難なのではあるまいか。「目黒の秋刀魚」と云った漱石の諷刺は、物質と精神の安定を基盤としている境遇の人々に対して成立した、庶民の諷刺で・・・ 宮本百合子 「日本の青春」
・・・ 他の例というのは、若い文壇関係の人の口から一度ならず、政治家や軍人なんぞはなかなかどうしていいところがある、第一実に率直だし、明快だし、会っていて人間的に愉快ですよ、という言葉をさも気乗りのしているらしい表情とともに聞かされることであ・・・ 宮本百合子 「文学の大衆化論について」
・・・ 大迫さんの才気のある筆は、明快にときに皮肉に娘さん心理のいろいろな面を描き出しているのだけれど、私はひそかな疑問を感じた。娘さんたちはこの本をよんで、いろいろな点全くだわと共感しつつ同時に何となく物足りない底の足りないような感じを心の・・・ 宮本百合子 「若い婦人の著書二つ」
・・・四年間の猶予ということは、取りも直さず、ずるずるで払わないでも済んでしまうという可能性をもっていると、その解説者も明快に説明した。それは数十万円の税金を払う最も多額の利潤を得た人々のために、政府が考えてやっている便法である。より少い、より僅・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・しかしそれを切りぬけて出た作者は、その卒直な態度のゆえに、また物を言い切る明快さのゆえに、物の形のくっきりとした、明澄な世界を作り出すことができるであろう。そういう作の中には、非常によい人物と、非常にいやな人物とが、並んで現われるかも知れな・・・ 和辻哲郎 「藤村の個性」
出典:青空文庫