・・・そのことが、いかに、純情、無垢な彼等の明朗性を損うことか分らないのみならず、真の勇気を阻止し、権力の前に卑屈な人間たらしめることになるのであります。 考うるだに慨歎すべきことです。この種の読物こそ、階級闘争の種子を蒔き、その激化を将来に・・・ 小川未明 「童話を書く時の心」
・・・曾て自から高しとしたにかゝわらず、いまや、脆くも、その誇りを捨て、ジャナリズムに追従せんと苦心する文筆家が、即ちそれであるが、文章に、自然なところがなく、また明朗さがなく、風格がなく、何等個性の親しむべきものなきを、如何ともすることができな・・・ 小川未明 「読むうちに思ったこと」
・・・反立法としての私の役割が、次に生れる明朗に少しでも役立てば、それで私は、死んでもいいと思っていた。誰も、笑って、ほんとうにしないかも知れないが、実際それは、そう思っていたものだ。私は、そんなばかなのだ。私は、間違っていたかも知れないね。やは・・・ 太宰治 「姥捨」
・・・とても豊富な明朗なものを感じました。外八文字も、狐も、あなたに対してはまるで処女の如くはにかみ、伏目になっていかにも嬉しそうにくすくす笑ったりなどするので、私は、あなたの手腕の程に、ひそかに敬服さえ致しました。やはり、あなたは都会の人で、そ・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・ さあ、私に明朗の御返事下さい。黒田重治。太宰治学兄。」「貴翰拝誦。病気恢復のおもむきにてなによりのことと思います。土佐から帰って以来、仕事に追われ、見舞にも行けないが、病気がよくなればそれでいいと思っている。今日は十五日締切の小説で大・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・風車がぴたりと停止した時、「ありがとう!」明朗な口調で青年が言った。 私もはっきり答えた。「ハバカリサマ。」 それは、どんな意味なのか、私にはわからない。けれども私は、そう言って青年に会釈して、五、六歩あるいて、実に気持がよ・・・ 太宰治 「作家の手帖」
・・・ト言ウテ深ク苦慮シテ居マシタ。以来、十春秋、日夜転輾、鞭影キミヲ尅シ、九狂一拝ノ精進、師ノ御懸念一掃ノオ仕事シテ居ラレルナラバ、私、何ヲ言オウ、声高ク、「アリガトウ」ト明朗、粛然ノ謝辞ノミ。シカルニ、此ノ頃ノ君、タイヘン失礼ナ小説カイテ居ラ・・・ 太宰治 「創生記」
・・・私は、きっと明朗に立ち直る。私は、もとから、自己弁解は、下手くそである。ことにも、私的な生活に就ての弁明を、このような作品の上で行うことは、これは明らかに邪道のように思われる。芸術作品は、芸術作品として、別個に大事に持扱わなければ、いけない・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・信ぜよ、花ひらく時には、たしかに明朗の音を発する。これを仮りに名づけて、われら、「ロマン派の勝利。」という。誇れよ! わがリアリスト、これこそは、君が忍苦三十年の生んだ子、玉の子、光の子である。 この子の瞳の青さを笑うな。羞恥深き、・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・ わが終生の祈願 天にもとどろきわたるほどの、明朗きわまりなき出世美談を、一篇だけ書くこと。 わが友 ひとこと口走ったが最後、この世の中から、完全に、葬り去られる。そんな胸の奥の奥にしまってい・・・ 太宰治 「碧眼托鉢」
出典:青空文庫