・・・好きなら、好きと、なぜ明朗に言えないのか。おととい、作家のDさんのところへ遊びに行った時にも、そんな話が出たけれどDさんは、その時、僕を俗物だと言いやがった。そういうDさんだって、僕があの人の日常生活を親しくちょいちょい覗いてみたところに依・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・ピアノの音からこの旗のはためきに移る瞬間に、われわれはちょうどあるシンフォニーでパッショネートな一楽章から急転直下 Attacca subita il seguente に明朗なフィナーレに移るときと同じような心持ちを味わうのである。 ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・科学者のM君は積分的効果を狙って着実なる戦法をとっているらしく、フランス文学のN君はエスプリとエランの恍惚境を望んでドライブしているらしく、M夫人の球はその近代的闊達と明朗をもってしてもやはりどこか女性らしいやさしさたおやかさをもっているよ・・・ 寺田寅彦 「ゴルフ随行記」
・・・ある意味では野蛮でブルータルであると同時に一方ではまた新鮮で明朗で逞しい美しさがないとは云われない。 踊る人間の肉体の立派さは神の作った芸術でこれだけはどうにもしようがない。特にあのアラビア人のような名前のついた一団の自由自在に跳躍する・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
・・・未亡人の生活になげられたのは、明朗な社会的な協力というよりも、親族的な配慮であり、さもなければうけるのも苦しいというような異性の好意である場合が多い。若いしっかりした良人を失った女性たちは、こういう経験をとおしてだけでも、どんなに仕事の上で・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・わたしたち人民の判断を、公平で、明朗で、正確なものにするためになくてはならない現実の材料を奪うために、政府はどんな手段をとってきているかが分ります。 ファシズムに対するわたしたちの闘いには、これらのデマゴギーと挑発によって事実を不正確に・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・ この座談会の席上で、島木氏や徳永氏によってプロレタリア文学作品の一つの発展的タイプとして「プロレタリア的な単純な明朗性を持った作品」「単純な、明快な言葉で判りよく、しかも芸術的な」作品が翹望されている。そのような作品に対する評価の点で・・・ 宮本百合子 「新年号の『文学評論』その他」
・・・ 民法の上にさっそうたる朝風が吹きわたるとして、さて、私たちの毎日の実際で、当事者同士の意志は、そんな単純明朗であり得るだろうか。結婚は愛するものたちの「自由意志」に立つとして、その基本になるどっさりの社会条件は、誰の意志によって実現し・・・ 宮本百合子 「世界の寡婦」
・・・ ところが、そのような進駐軍の明るさが、そのまま曇りない明朗さとして、日本人の感情に影響しているかと云えば、其は必ずしもそうではない。 甘すぎるチョコレート話のあった翌日の夕刻、用があって又別の郊外電車にのった。買出しの大荷を背負っ・・・ 宮本百合子 「その源」
・・・家や評論家が、不分明な日本語を操っていたうちはともかくそれぞれの立場から人間らしき知慧の明るさを求めていたのに、辛うじて平易な日本文を書き出したと同時に知性を喪失したとあっては、一九四〇年を目ざして、明朗な文化高揚のため砕心する諸賢において・・・ 宮本百合子 「「迷いの末は」」
出典:青空文庫