・・・芝公園で、ちょっと面会出来るそうです。明朝九時に、芝公園へ来て下さい。兄上からTへ、私の気持を、うまく伝えてやって下さい。私は、ばかですから、Tには何も言ってないのです」という速達が来たのである。妹は二十二歳であるが、柄が小さいから子供のよ・・・ 太宰治 「東京八景」
・・・ 小川君は、僕の事を乞食だなんて言って、ご自身大いに高潔みたいに気取っていやがったけれども、見よ、この家の女中は、お客と一緒に寝ているじゃないか。明朝かれにさっそく、この事を告げて、彼をして狼狽させてやるのも一興である。 なおもひそひそ・・・ 太宰治 「母」
・・・とにかく今夜一晩だけでもあの包みなしに安眠したいと思ったのである。明朝になったなら、またどうにかしようというのであった。しかしそれは画餅になった。おれはとうとう包みと一しょに寝た。十二キロメエトル歩いたあとだからおれは随分くたびれていて、す・・・ 著:ディモフオシップ 訳:森鴎外 「襟」
・・・まだ明るい宵のうちには縄飛びをする者もあれば、写生帖を出しておばあさんの後姿をかいているのもある。明朝咲く朝顔の莟を数えて報告するのもある。幼い女児二人は縁側へいろいろなお花を並べて花屋さんごっこをする事もある。暗くなると花火をしたり、お伽・・・ 寺田寅彦 「小さな出来事」
・・・けど、その晩はもう遅くもあるし、さアと云って出かけることもならねえもんだから、明朝仕事を休んで一番で立って行った。 それア鄭重なもんですぜ。私ア恁う恁うしたもので、これこれで出向いて来ましたって云うことを話すと、直に夫々掛りの人に通じて・・・ 徳田秋声 「躯」
・・・今日いいかと思うと、明朝はまた変わるといったふうだから、東京へ帰って、また来るようなことになっても困る」 そのころ病人は少し落ち著いたところで、多勢の人たちによって山から降ろされて、自分の家の茶室に臥ていた。兄はしばらくぶりで、汽車の窓・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・何でもよろしゅう御座いますから明朝四谷へ行って御覧遊ばせ、きっと何か御座いますよ、婆やが受合いますから」「きっと何かあっちゃ厭だな。どうか工夫はあるまいか」「それだから早く御越し遊ばせと申し上げるのに、あなたが余り剛情を御張り遊ばす・・・ 夏目漱石 「琴のそら音」
・・・いつしか夜があけ、くたびれて動けなかったので私は寝ていて、栄さんやいねちゃんが出かけ、その人々は中野の方へ用事で行き、かえりに栄さんがよって、とてもひどい順番で、年内は無駄だろうと知らせてくれました。明朝行こうとしたのをやめる代り、本は速達・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ ところが、このリージン氏が明朝自分たちもグルジンスカヤ山道をチフリスへ行くから一つ仲間にならないかと申し出た。自動車の坐席の都合からである。こちらも女二人きりよりはその方がよい。そう思い、承諾して、朝になった。 自動車へ乗込むとい・・・ 宮本百合子 「石油の都バクーへ」
・・・民子が自分の家庭の事情をも考え、はっきりした返事を出しかねているうちに、電報で明朝新宿へ着くから迎えに出てくれということになり、愈々上京したとし子が民子の家庭で、一とおりならぬ民子の気づかいを引起しつつ暮す次第が、すらすらと巧に描かれている・・・ 宮本百合子 「村からの娘」
出典:青空文庫