・・・彼は、素直に伝右衛門の意をむかえて、当時内蔵助が仇家の細作を欺くために、法衣をまとって升屋の夕霧のもとへ通いつめた話を、事明細に話して聞かせた。「あの通り真面目な顔をしている内蔵助が、当時は里げしきと申す唄を作った事もございました。それ・・・ 芥川竜之介 「或日の大石内蔵助」
・・・ この文句の次に、出会うはずの場所が明細に書いてある。名前はコンスタンチェとして、その下に書いた苗字を読める位に消してある。 この手紙を書いた女は、手紙を出してしまうと、直ぐに町へ行って、銃を売る店を尋ねた。そして笑談のように、軽い・・・ 著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外 「女の決闘」
・・・ この文句の次に、出会う筈の場所が明細に書いてある。名前はコンスタンチェとして、その下に書いた苗字を読める位に消してある。 第二 前回は、「その下に書いた苗字を読める位に消してある。」というところ迄でした。その一句・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・それでこれらの人々から受けた親切は一々明細に記録しておいて、気長にそしてなしくずしにこれを償却しなければならないのである。 そこへ行くとさすがに都会の人の冷淡さと薄情さはサッパリしていて気持ちがいい。大雨の中を頭からぬれひたって銀座通り・・・ 寺田寅彦 「田園雑感」
・・・ 自分は今日になっても大川の流のどの辺が最も浅くどの辺が最も深く、そして上汐下汐の潮流がどの辺において最も急激であるかを、もし質問する人でもあったら一々明細に説明する事の出来るのは皆当時の経験の賜物である。 午後に夕立を降して去った・・・ 永井荷風 「夏の町」
・・・と一々明細に説明してやって、例えば東京市の地図が牛込区とか小石川区とか何区とかハッキリ分ってるように、職業の分化発展の意味も区域も盛衰も一目の下に暸然会得できるような仕かけにして、そうして自分の好きな所へ飛び込ましたらまことに便利じゃないか・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
・・・彼らの精神作用について微妙な細い割り方をして、しかもその割った部分を明細に描写する手際がなければ時勢に釣り合わない。これだけの眼識のないものが人間を写そうと企てるのは、あたかも色盲が絵をかこうと発心するようなものでとうてい成功はしないのであ・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・ お金は良吉でさえびっくりする様な、明細な小使町(を、お君のために作って居た。 いつなおると云うあてもない病人にかかる金の予算はもとより立たないけれ共、月に一週間の入院料、前後のこまこました物入り、薬代などのために、月二十円は余分に・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・あの男、こないだの遠足の明細書をまだまだ学級経済委員へ出さないのよ。 ――ふーむ。お前注意してやれ。 マトリョーナは黙ってたが、いきなり、ジャガ薯を頬ばりながら、 ――全く我々の親たちは無自覚だ!とうなった。今度はワーニカが・・・ 宮本百合子 「ワーニカとターニャ」
出典:青空文庫