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・・・『星夜』というものを書いたのもあの林の中だ。短い冥想の記録のようなもので、彼処で書いたものには、私の好きなものが沢山ある。意地の悪い鳥が来て高い梢の上で啼くのを聞いて、皮肉屋というものが、文壇にばかりいると思ったら、こんな処にもいた、という・・・
島崎藤村
「北村透谷の短き一生」
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・・・ 外は星夜の深い闇がいっぱいに拡がってどっかで下手な浪花節をうなって居るのが聞えて来た。 千世子の草履の音と京子の日和のいきな響が入りまじっていかにも女が歩くらしい音をたて時々思い出した様に又ははじけた様に笑う声が桜の梢に消えて行っ・・・
宮本百合子
「千世子(三)」