・・・その頃女学雑誌には星野天知君もかなり深く関係していた。巌本氏は清教徒的の見地から、文学を考えているような人だったから、純文芸に向おうとするものは、意見の合わないような処が出来て来た。星野君の家は日本橋本町四丁目の角にあった砂糖問屋で、男三郎・・・ 島崎藤村 「北村透谷の短き一生」
・・・ 沓掛駅の野天のプラットフォームに下りたった時の心持は、一駅前の軽井沢とは全く別である。物々しさの代りに心安さがある。 星野温泉行のバスが、千ヶ滝道から右に切れると、どこともなくぷんと強い松の匂いがする。小松のみどりが強烈な日光に照・・・ 寺田寅彦 「浅間山麓より」
去年の夏信州沓掛駅に近い湯川の上流に沿うた谷あいの星野温泉に前後二回合わせて二週間ばかりを全く日常生活の煩いから免れて閑静に暮らしたのが、健康にも精神にも目に見えてよい効果があったように思われるので、ことしの夏も奮発して出・・・ 寺田寅彦 「あひると猿」
・・・ 星野温泉の宿の池に毎朝水鶏が来て鳴く。こぶし大の石ころを一秒に三四ぐらいのテンポで続けざまにたたき合わせるような音である。それが、毎朝東の空がわずかに白みかけるころにはきまってたたきに来る。そっと起き出して窓からのぞいて見ても姿は見え・・・ 寺田寅彦 「軽井沢」
一 ほととぎすの鳴き声 信州沓掛駅近くの星野温泉に七月中旬から下旬へかけて滞在していた間に毎日うるさいほどほととぎすの声を聞いた。ほぼ同じ時刻にほぼ同じ方面からほぼ同じ方向に向けて飛びながら鳴くことがしばし・・・ 寺田寅彦 「疑問と空想」
・・・ その夜星野温泉へ帰って戸外へ出て空を仰いだら久しぶりで天頂に星がきらきら輝いているのが見えた。T君が今夜は一晩星をねらいながら明かすことであろうと思って寝床にはいった。 寝ながら、T君の小浅間頂上のテント生活と、近代青年男女の間に・・・ 寺田寅彦 「小浅間」
・・・ 二 とんぼ 八月初旬のある日の夕方信州星野温泉のうしろの丘に散点する別荘地を散歩していた。とんぼが一匹飛んで来て自分の帽子の上に止まったのを同伴の子供が注意した。こういう事はこの土地では毎日のように経験することであ・・・ 寺田寅彦 「三斜晶系」
・・・ 星野温泉へ着いて見ると地面はもう相当色が変わるくらい灰が降り積もっている。草原の上に干してあった合羽の上には約一ミリか二ミリの厚さに積もっていた。 庭の檜葉の手入れをしていた植木屋たちはしかし平気で何事も起こっていないような顔をし・・・ 寺田寅彦 「小爆発二件」
・・・ この夏信州星野温泉から小瀬温泉まで散歩したとき途中で道の別れるところに一人若い男が休んでいたので、小瀬へはこちらでいいかと聞くと、それでは反対で白糸の滝へ行ってしまうという。どうも変だと思って五万分一に相談してみるとやっぱり自分の思っ・・・ 寺田寅彦 「地図をながめて」
・・・ 二十二日 鶴見、河井、其他星野等と食事に招れる。 二十四日 雪降り。野中夫人に若松によばれる。おくれてミス コーフィルドに行き、グランパのことを話す。 二十五日 “Victory day” for New York Ci・・・ 宮本百合子 「「黄銅時代」創作メモ」
出典:青空文庫