ある薄ら曇りの日、ぶらぶら隣村へ歩いた。その村に生田春月の詩碑がある。途中でふとその詩碑のところへ行ってみる気になって海岸の道路を左へそれ、細道を曲り村の墓地のある丘へあがって行った。 墓地の下の小高いところに海に面し・・・ 黒島伝治 「短命長命」
・・・そうして単に雪後の春月に対して物思う姿の余情を味わえば足りるであろう。 連想には上記のように内容から来るもののほかにまた単なる音調から来る連想あるいは共鳴といったような現象がしばしばある。これはわれわれ連句するものの日常経験するところで・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・そのほか春月、春水、暮春などいえる春の題を艶なる方に詠み出でたるは蕪村なり。例えば伽羅くさき人の仮寝や朧月女倶して内裏拝まん朧月薬盗む女やはある朧月河内路や東風吹き送る巫が袖片町にさらさ染るや春の風春水や四条五条・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
出典:青空文庫