・・・「順天時報」はそのために大きい彼の写真を出したり、三段抜きの記事を掲げたりした。何でもこの記事に従えば、喪服を着た常子はふだんよりも一層にこにこしていたそうである。ある上役や同僚は無駄になった香奠を会費に復活祝賀会を開いたそうである。もっと・・・ 芥川竜之介 「馬の脚」
・・・昨夜の疲労で今朝は七時の時報を聞いても仲々起きられなかった。範画教材として描いた笹の墨絵を見ながら、入営のこと、文学のこと、花籠のこと等、漠然と考えはじめた。××県地図と笹の絵が、白い宿直室の壁に、何かさむざむとへばりついているのが、自分を・・・ 太宰治 「新郎」
・・・毎日午前十一時とかに東京天文台から放送される時報を受け取ってクロノメーターの時差を験するためである。 このテントから少し北に離れて住居用の長方形テントが張ってある。ここがT君と陸地測量部から派遣された二人の測夫と三人の仮の宿である。これ・・・ 寺田寅彦 「小浅間」
・・・国際局の機関雑誌『外国文学時報』も亦大きな欠点をもっている。これは直に改革して世界プロレタリア文学の事実上の指導機関たらしめねばならない。」 国際局と外国プロレタリア作家団との連絡の問題について、報告後の討論に際し最も多くを訴えたのはア・・・ 宮本百合子 「ニッポン三週間」
・・・がらんとした白壁の裾には、荒繩で束った日露時報の返品が塵にまみれて積んである。弾機もない堅い椅子が四五脚、むき出しの円卓子の周囲に乱雑に置いてあった。その一つを腰の下に引きよせるや否や、ブーキン夫人は新しい勢いで云いだした。「レオニード・・・ 宮本百合子 「街」
出典:青空文庫