・・・ こういう皮相的科学教育が普及した結果として、あらゆる化け物どもは箱根はもちろん日本の国境から追放された。あらゆる化け物に関する貴重な「事実」をすべて迷信という言葉で抹殺する事がすなわち科学の目的であり手がらででもあるかのような・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・政府でも火災の軽減を講究する学術的機関を設ける必要のあることは前述のとおりであるが、民衆一般にももう少し火災に関する科学的知識を普及させるのが急務であろうと思われる。少なくもさし当たり小学校中等学校の教程中に適当なる形において火災学初歩のよ・・・ 寺田寅彦 「函館の大火について」
・・・チュリップ、ヒヤシンス、ベコニヤなどもダリヤと同じく珍奇なる異草として尊まれていたが、いつか普及せられてコスモスの流行るころには、西河岸の地蔵尊、虎ノ門の金毘羅などの縁日にも、アセチリンの悪臭鼻を突く燈火の下に陳列されるようになっていた。・・・ 永井荷風 「葛飾土産」
・・・レールの幅は狭軌で能率のわるい鉄道ながら、ともかく日本には明治以来鉄道が普及しているし、それと同じに天皇制軍国主義的国民教育というものが、明治以来全国にしみとおっています。これは、封建的な主従関係での忠義の感情にいきなりむすびついて「奉公」・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・は、啓蒙的な必要のためには、最もじかにその目的をもって書かれているそれらの紹介を集め、出版し、普及させるのが、能率的であり、活溌な方法であった。しかし、当時の「ナップ」指導部はそう考えず、作者自身も、そういう標題小説が、はたして可能であるか・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・ ピオニェールたちの間にも段々写真が普及しはじめた頃、私はかえって来たのであった。 この間うち新聞社の主催で大々的に行われたカメラ祭というものは、未曾有の催しであった。下岡蓮杖の功績が新しく人々の科学常識の間にとりいれられたのは結構・・・ 宮本百合子 「カメラの焦点」
・・・ 国語の性質、普及の範囲などと云うことは、純粋に芸術に没頭した場合、決して、第一浮んで来る問題ではないと思います。〔一九二二年四月〕 宮本百合子 「芸術家と国語」
・・・女学校令というものが出来て、女子教育の普及を計ると云われたのは一八九九年のことであるが、その次の年政府は治安警察法第五条で女子の政治運動を禁止した。 日本の地平線をちらりと掠めた民主主義の黎明は、こうして短い歴史を終った。そして近代国家・・・ 宮本百合子 「現実に立って」
・・・その原則を原則なりに新しい文学の基礎認識として普及しようとしていた時代の社会科学的批評の方法を、一九四五年以後の民主的文学運動はどのように発展させることができただろう。新しい現実にふさわしくしなやかで、機能の高い関節をどんなにふやすことがで・・・ 宮本百合子 「現代文学の広場」
・・・一、プロレタリアの技術の一半として、正確な軍事知識を獲得し、普及すること。一、軍事活動に作家も参加すること、等。 十月初旬から中旬にかけて、モスクワ地方赤軍の演習があった。ロカフは演習へ参加するために積極的にプロレタリア作家を召・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
出典:青空文庫