・・・ 罹災民諸君が何日ぶりかで、諸君の家へ帰られる日の午前に、僕たちは、僕たちの集めた義捐金の残額を投じて、諸君のために福引を行うことにした。 景品はその前夜に註文した。当日の朝、僕が学校の事務室へ行った時には、もう僕たちの連中が、大ぜ・・・ 芥川竜之介 「水の三日」
・・・を語り、二等賞を貰った。景品の大きな座蒲団は蝶子が毎日使った。 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・油一合買ってくれた人には、飴玉一つ景品としてやったんだ。それが当った。また川向うの斎藤だって、いまこそあんな大地主で威張りかえっているけれども、三代前には、川に流れている柴を拾い、それを削って串を作り、川からとった雑魚をその串にさして焼いて・・・ 太宰治 「親友交歓」
・・・純粋に盗むことだけの目的で、それは、はいるのだろうが、けれども、そこに何か景品的なたのしみも、こっそりあてにしてはいないか。同じことなら、若夫婦の寝所にしのびこんでみたい、そうして、君、ああ、いやしい! きたない! 恥ずかしくないか。君は、・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・公務員法をむりやりとおしてはじめからきらわれている吉田内閣は新しい選挙をひかえて、いくらかでも人気をとりかえすために食糧問題や転入自由の景品をだしました。「住宅問題の解決や賃金問題の解決はぬきにして」きたるべき選挙に今日の政府は勝算をもって・・・ 宮本百合子 「泉山問題について」
・・・五百十五頁の『キング』一冊に五枚一組袋入りの額面用名画というブルジョア画家の画の複製が景品について来た。 成程、この画は壁の破れたところに貼っても一寸体裁がよかろう。壁が破れても修繕はしてくれず、家賃ばかり矢の催促にくる大家に対して、借・・・ 宮本百合子 「『キング』で得をするのは誰か」
・・・いい加減の訳をよまされた上、景品として世界的現実の劇画まで与えられることは、私たちとして辞退したく思うのである。 体位の向上がひろく云われている以上、精神の体位を向上させることも、現代の任務の一つな筈である。 そんなことを考えていた・・・ 宮本百合子 「翻訳の価値」
・・・ よくものを買うと景品がついて来る事がある。私は人間の世の中には買物でなくっても景品と云うものはある、と思う。 気まぐれでフッと思い立った時に、急にもの事のしたくなるのは我ままの一つだけれども思いながらうっちゃりぱなしにして・・・ 宮本百合子 「芽生」
出典:青空文庫