・・・藤村、晶子にしろロマンチシズム時代の空想をさえ生活実体として具体的に感覚し得ただけ生活力と若々しさをもっていた。「抽象的な情熱」という十分の自覚に立って日本の文学古典のうち最も生活と芸術とが融合一致していた万葉時代の、生命力に溢れた芸術・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・与謝野晶子の「君死にたまふことなかれ」と戦争の野蛮に抗議した詩は、文学史の上にさえ全文を現わさなかった。日露戦争当時、晶子がこの作品を発表したことを憤って大町桂月が大抗議したことがあった。「変目伝」の作者広津柳浪は、当時の文学者としては西欧・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
・・・与謝野晶子、藤村などが詩を語って、思い出の中にまざまざ生かしているであろうカフェー・リラで、今日声高く談ぜられているのは常に必ずしも、文学、音楽のことのみではない。横光氏は座談会で云っている。「外国の文士というものは聊か政治批評をやっている・・・ 宮本百合子 「「迷いの末は」」
・・・与謝野晶子さんの現代語訳源氏物語が出版されたのは、正確にはいつ頃のことであったか。今はっきり思い出せないが、私はそれを真似て、西鶴の永代蔵の何かを口語体に書き直し、表紙をつけ、綴じて大切に眺めたりした覚がある。 小学校六年の夏休みのこと・・・ 宮本百合子 「行方不明の処女作」
・・・ 藤村や晶子が盛にロマンティックな詩で愛の美しさ、愛し合う男女の結合の美しさ、価値をうたった時代、現実の社会生活の中では決してそのような誰にものぞましい結合がざらにあった訳ではなかった。進歩的な若い文学者などが、新しい生活への翹望とその・・・ 宮本百合子 「若き世代への恋愛論」
・・・なぜと申しますに、源氏物語を翻訳するに適した人を、わたくし共の同世の人の間に求めますれば、与謝野晶子さんに増す人はあるまいと思いますからでございます。源氏物語が Congコンジェニアル な人の手で訳せられたのだと思いますからでございます。・・・ 森鴎外 「『新訳源氏物語』初版の序」
出典:青空文庫