・・・死は音もなく歩み頭蓋の縫目より呪文をとなえ底なき瞳は世のすべてをすかし見て生あるものやがては我手に落ち来るを知りて 嘲笑う――重き夜の深き眠りややさめて青白き暁光の宇宙の一端に生るれば死はい・・・ 宮本百合子 「片すみにかがむ死の影」
・・・ けれ共、私の悲しさをいやすべく、二親の歓びを助くべく、今まで見た事もない様な美くしい児を、何者かが与えて下すった事は、私には暁光を仰ぐと等しい事である。 二日の午前九時四十分 健康な産声を高々と、独りの姉を補佐すべく産れて来た・・・ 宮本百合子 「暁光」
・・・ 真の芸術の厳な暁光におっちょこちょいの人達は驚異の目を見張りやがてはどこへかその姿をかくして仕舞うことを希望し又必ずそうなくてはならない事であると思う。 宮本百合子 「無題(二)」
出典:青空文庫