・・・列に過ぎないようであるが、精神分析学者の説くところによると、それらの断片をそれの象徴する潜在的内容に翻訳すれば、そういう夢はちゃんとした有機的な文章になり、そうして恐るべきわが内部生活の秘密を赤裸々に暴露するものである。ただ夢の場合にはこれ・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・これに反して環夫人の独唱のごときは、ただきわめて不愉快なる現実の暴露に過ぎない。 絵画が写実から印象へ、印象から表現へ、また分離と構成へ進んだように映画も同じような道をすすむのではないか。そうして最後に生き残る本然の要素は結局自分の子供・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・政府が君らを締め殺したその前後の遽てざまに、政府の、否、君らがいわゆる権力階級の鼎の軽重は分明に暴露されてしもうた。 こんな事になるのも、国政の要路に当る者に博大なる理想もなく、信念もなく人情に立つことを知らず、人格を敬することを知らず・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・ナチュラリズムの道徳は、自己の欠点を暴露させる正直な可愛らしい所がある。 ローマンチシズムの芸術は情緒的エモーショナルで人をして偉く大きく思わせるし、ナチュラリズムの芸術は理智的で、正直に実際を思わしめる。即ち文学上から見てローマンチシ・・・ 夏目漱石 「教育と文芸」
・・・船がつくと、どんな島でも、資本主義にその生命を枯らされていることが暴露されるからであった。 燈台が一つより外無い島、そして燈台守以外には、一人の人間も居ない島、そんな島が幾つも浮んでいた。そんな島は、媾曳の夜のように、水火夫たちを詩人に・・・ 葉山嘉樹 「労働者の居ない船」
・・・男子の貞操を守っていない夫に対して、復讐がしてやりたいと云う心持が、はっきり筆に書いてはないが、文句の端々に曝露している。それに受身になって運命に左右せられていないで、何か閲歴がしてみたいと云う女の気質の反抗が見えている。要するにどの女でも・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・それだから、たとえそれが反抗的な要素によってつくられていても、直接に、大胆に暴露や批判はしない。消極性を少なからずもっている。 今日、世界唯一のプロレタリアートの国ソヴェト・ロシアは昔から、革命的経験をどの国より豊富に、歴史的発展につれ・・・ 宮本百合子 「新たなプロレタリア文学」
・・・ 作者の非プロレタリア的現実把握が微妙に右の一二行によって暴露されている。即ち、チャーリーの本当の気分は恐慌によって弱くなっているのだが、宣伝のためには有利だと、まるで第二インターナショナルの職業的社会主義者のように、切迫した恐慌による・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・しかし筆の走りついでだから、もう一度主筆に追願をして、少しくこの門外漢の評価の一端を暴露しようか。明治の聖代になってから以還、分明に前人の迹を踏まない文章が出でたということは、後世に至っても争うものはあるまい。露伴の如きが、その作者の一人で・・・ 森鴎外 「鴎外漁史とは誰ぞ」
・・・ しかしこれらのことは直ちにまたその半面の事実をも暴露している。すなわち洋画家は手に合うものをしか描いていない。日本画家は手に合わぬものを弄んで、生命のない色と線の遊戯に堕する傾向を示している。 洋画家の自然に対する態度はとにかく謙・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
出典:青空文庫