・・・なぜなら、彼は精神生活が、物的環境の変化の後に更生するのを主張する人であるから。結局唯物史観の源頭たるマルクス自身の始めの要求にして最後の期待は、唯物の桎梏から人間性への解放であることを知るに難くないであろう。 マルクスの主張が詮じつめ・・・ 有島武郎 「想片」
・・・そして、その刹那から人知れず孜々として、更生の準備にとりかゝりつゝあるのを見よ。 人生は、また希望である。 小川未明 「名もなき草」
・・・四年前――昭和六年八月十日の夜、中之島公園の川岸に佇んで死を決していた長藤十吉君を救って更生への道を教えたまま飄然として姿を消していた秋山八郎君は、その後転々として流転の生活を送った末、病苦と失業苦にうらぶれた身を横たえたのが東成区北生野町・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・豹吉やお加代や亀吉がやがて更生して行くだろう経過、豹吉とお加代、そして雪子との関係、小沢と道子の今後、伊部の起ち直りの如何……その他なお述べるべきことが多いが、しかしそれらはこの「夜光虫」と題する小説とはまたべつの物語を構成するであろう。・・・ 織田作之助 「夜光虫」
・・・それだけのお金や品物が残っていたら、なに、あとはその人の創意工夫で、なんとかやって行けるものだ、田舎のお百姓さんたちにたよらず、立派に自力で更生の道を切りひらいて行くべきだと思う。とこうまあ謂わば正論を以て一矢報いてやったのですね、そうする・・・ 太宰治 「やんぬる哉」
・・・ 私には、たとい良人の形体は地上から消滅しても、彼の全部は、皆、彼との結婚後更生した自己の裡に、確に、間違いなく生きているのだ、という全我的の信仰、安住も持ち得ないのです。 現在、私の心を満し、霊魂を輝やかせ、生活意識をより強大にし・・・ 宮本百合子 「偶感一語」
・・・テラス、ロマンス類が、もとの軍情報部に働いていた人をやとい入れて、戦時秘史だの反民主的な雰囲気を匂わせはじめると、その風潮は無差別にぱっとひろがって二・二六事件記事の合理化された更生から文学にまで波及し「軍艦大和」のように問題となる作品をう・・・ 宮本百合子 「ジャーナリズムの航路」
・・・ 私は更生といってよいほどの溌溂さを以て、自己の内的配置の移動を覚えました。永い間忘られていた純粋な歓喜が心を貫いて、涙をとどめ得なかった。何といおうか、人格の芯の芯まで光りが射し込み、自己内部に拘わっているものの純不純が一目瞭然とし、・・・ 宮本百合子 「われを省みる」
出典:青空文庫