・・・ 軈て、書庫に導かれた。窓際の硝子蓋の裡に天正十五年の禁教令出島和蘭屋敷の絵巻物、対支貿易に使用された信牌、航海図、切支丹ころびに関する書類、有名なフェートン号の航海日誌、ミッション・プレス等。左の硝子箱に、シーボルト着用の金モウル附礼・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・バルザックが、人類史を知らなかったこと、そのような本を積上げた祖父の大書庫などはないバルザの家に生れたことこそ、彼がその文学的成功においても、破綻においても、全く当時としてのリアリストたり得たことの基因であったと観るのである。 バルザッ・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・私には、コンクリートの書庫をつくるという手段もない。どっさりの愛すべく尊敬すべき本たちは、年が新しくなるにつれて豊かな生活の脈搏をつたえつつあるのだが、それらの本を、私はせめていくらか火事に遠そうな場所へ置くというだけのことしか出来ない。で・・・ 宮本百合子 「本棚」
・・・芝の金地院に下宿したのも、書庫をあさるためであった。この年に三女登梅子が急病で死んで、四女歌子が生まれた。 そのつぎの年に藩主が奏者になられて、仲平に押合方という役を命ぜられたが、目が悪いと言ってことわった。薄暗い明りで本ばかり読んでい・・・ 森鴎外 「安井夫人」
出典:青空文庫