・・・彼等は金儲けのためには義理人情もない云々と書き立て、――それに比べると川那子丹造鑑製の薬は……と、ごたくを並べ、甚しきは医者に鬼の如き角を生やした諷刺画まで掲載し、なお、飽き足らずに「売薬業者は嘘つきの凝結」などと、同業者にまで八つ当った…・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・あの早川賢が横死を遂げた際に、同じ運命を共にさせられたという不幸な少年一太のことなぞも、さかんに書き立ててあった。またかと思うような号外売りがこの町の界隈へも鈴を振り立てながら走ってやって来て、大げさな声で、そこいらに不安をまきちらして行く・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・ それから、とうさんが生活を変えると言ったら、事あれかしの新聞記者なぞに大袈裟に書き立てられても迷惑しますから、しばらくこの手紙の内容はおまえたちだけで承知していてください。友人にも世間の人たちにもおりを見てぽつぽつ知らせるつもりです。・・・ 島崎藤村 「再婚について」
・・・そういうものがいよいよ芽を出し始めた時に、新聞で書き立てたり講演に引っぱり出したりしないことが肝要である。 十六 自分の周囲のものは大きく見えて、遠いものほど小さく見える。これは分りきった透視画法の原理である・・・ 寺田寅彦 「鑢屑」
・・・曾我の五郎十郎こそ千載の誉れ、末代の手本なれなど書立てゝ出版したらば、或は発売を禁止せらるゝことならん。如何となれば現行法律の旨に背くが故なり。其れも小説物語の戯作ならば或は妨なからんなれども、家庭の教育書、学校の読本としては必ず異論ある可・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・を日本共産党再建の中心のように書き立てた魂胆も同じくここにあります。文化団体は合法的でやッつける口実がない。だから、そういう風に問題をこんぐらかし、大衆の目に何が何だか判らなくしておいて、かげで軍事的暴圧を振うのです。 八十日の間、私と・・・ 宮本百合子 「逆襲をもって私は戦います」
・・・仰々しい見出しで、恐らくは写真までをのせて書き立てた新聞記事によって動乱したらしい外の様子も手にとるように察しられる。 ヤスの生家は×県の富農で、本気なところのある娘だがこういう場合になると、何と云っても真のがんばりはきかない。階級性と・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・工さんであった児玉しづ子をはじめ多くの婦人党員が、男の党員とともにめざましい働きをしたと書きながら、裏をかえすとまるで婦人党員は、家政婦の役だの色仕掛で金をまき上げるようなことだのばかりしていたように書き立て、しかも事実何人がその記事の種と・・・ 宮本百合子 「婦人党員の目ざましい活動」
・・・に就いて、どんな階級的批判をも加えず、書立てているのも社民・労農大衆党と等しく、民主主義者と云うものはブルジョアの使傭人であることをなによりも雄弁に示している。これ等の実例でも明かのように、文化芸術に於けるファッシズムは決して或る限界線の向・・・ 宮本百合子 「ブルジョア作家のファッショ化に就て」
出典:青空文庫