・・・都新聞の書評で私のこの書を酷評した人があるが、私はその人たちよりは西鶴を知っている積りである。西鶴とスタンダールが似ていることを最初に言ったのは私であるが、これは他日詳しく論ずる。ただ、ここでは、私の西鶴観は「西鶴はリアリストの眼を持ってい・・・ 織田作之助 「わが文学修業」
・・・という長編小説の書評が、三段抜きで大きく出ていた。或る先輩の好意あふれるばかりの感想文であった。それこそ、過分のお褒めであった。私と北さんとは、黙って顔を見合せ、そうして同じくらい嬉しそうに一緒に微笑した。素晴らしい旅行になりそうな気がして・・・ 太宰治 「帰去来」
・・・ いまこの四冊の評論集をながめて、書評を書こうとし、非常に困難を感じる。なぜなら、この四冊の本には、著者の二十年近い生活とその発展のひだがたたまれている。しかもそれは一人の前進的な人間の小市民的インテリゲンツィアからボルシェビキへの成長・・・ 宮本百合子 「巖の花」
・・・ ここには、一九三二年の一月の創刊で、日本プロレタリア文化連盟から出版されていた『働く婦人』に書いた短いものからはじまって、一九四一年の一月執筆禁止をうけるまで婦人のために書いた感想、評論、伝記、書評など四十篇が集められている。一九三二・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十五巻)」
石川達三氏の「結婚の生態」という小説について、これまで文学作品として正面からとりあげた書評は見当らなかった。それにもかかわらず、この本は大変広汎に読まれている本の一つである。大変ひろく読まれながら、その読後の感想というもの・・・ 宮本百合子 「「結婚の生態」」
・・・今度新潮賞をうけることになったことや、それにつれてまた新しく『暦』の書評が書かれたりすることについて、壺井さんはどんな感想をもつだろうか。少し極りのわるい顔つきになって、何だか妙ねえ、というだろう。そして、心の中で、貰う賞金をいろんな子供や・・・ 宮本百合子 「『暦』とその作者」
・・・ こういう読者層はさすがに今日自分たちの判断が曇らされぼんやりさせられて来ていることは感じて、書評にたよったり、出版書肆の信用と目されるものにたよったり、著書の定評的評判にたよったりして本を読んでゆく。それにしろ、根本に於て、何となく自・・・ 宮本百合子 「今日の読者の性格」
・・・の民主的文学へのよびかけとして「歌声よおこれ」を新日本文学創刊号のために書いた。近代文学のために「よもの眺め」を書いた。主としてジュール・ロマンの「ヨーロッパの七つの謎」の書評であり、資本主義国家が第一次大戦後欧州の社会主義化をおそれて、ナ・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・『春を待つ心』についての書評は、もうあちこちにのっている。それらの批評は、どれも好意的である。それは自然なことだと思う。この『春を待つ心』に対して、誰しも、やさしくされた心でしか物は云えない。 子供のままのこころと云っても十七八歳に・・・ 宮本百合子 「病菌とたたかう人々」
前号の『文化タイムズ』に、わたしの評論集『歌声よ、おこれ』について本多秋五氏の書評がのせられた。その書評で、私が日本にプロレタリア文学は実質上存在しなかった、と書いているということがいわれている。「プロレタリア文学なるもの・・・ 宮本百合子 「プロレタリア文学の存在」
出典:青空文庫