・・・ 発行所の下の座敷には島木さん、平福さん、藤沢さん、高田さん、古今書院主人などが車座になって話していた。あの座敷は善く言えば蕭散としている。お茶うけの蜜柑も太だ小さい。僕は殊にこの蜜柑にアララギらしい親しみを感じた。 島木さんは大分・・・ 芥川竜之介 「島木赤彦氏」
・・・ 円福寺の方丈の書院の床の間には光琳風の大浪、四壁の欄間には林間の羅漢の百態が描かれている。いずれも椿岳の大作に数うべきものの一つであるが、就中大浪は柱の外、框の外までも奔浪畳波が滔れて椿岳流の放胆な筆力が十分に現われておる。 円福・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・広い書院は勲章や金モールの方で一杯だ。そこへ私にも出ろと仰ゃって下さるんだけれど、何ぼ何でも状が状だから出る訳に行きゃしねえ。 するとお前さん、大将が私の前までおいでなすって、お前にゃ単た一人の子息じゃったそうだなと、恐入った御挨拶でご・・・ 徳田秋声 「躯」
・・・大同書院という本屋から瀧川政次郎著『法律からみた支那国民性』というのが出ましたが御覧になるでしょうか。御返事下さい。 私は注射をやめました。やめ時らしくて先生から言い出されたから。何となしのんびりです。セザンヌの伝記を読んでもらい始めま・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 書院の袋戸棚 四枚の芭蕉布にぼんやり雪舟まがいの山水を書いたもの、ふたところ三ところ小菊模様の更紗でついであって、いずれも三水がくすぶっている。その上に 山静水音高 と書いた横ものがかかげられている。○馬が三頭いた。二頭に・・・ 宮本百合子 「Sketches for details Shima」
・・・四六書院より戯曲集『女人哀詞』を出版。『風』なお継続。三月末完結の予定。」その後、「女の一生」「真実一路」につづいて目下「路傍の石」が東西両朝日新聞に連載中である。 さて、この自伝の概略から、読者はどういう感銘を得るであろう。ここには、・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
・・・光尚はじきに逢おうと言って、権右衛門を書院の庭に廻らせた。 ちょうど卯の花の真っ白に咲いている垣の間に、小さい枝折戸のあるのをあけてはいって、権右衛門は芝生の上に突居た。光尚が見て、「手を負ったな、一段骨折りであった」と声をかけた。黒羽・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・西町奉行所の白州ははればれしい光景を呈している。書院には両奉行が列座する。奥まった所には別席を設けて、表向きの出座ではないが、城代が取り調べの模様をよそながら見に来ている。縁側には取り調べを命ぜられた与力が、書役を従えて着座する。 同心・・・ 森鴎外 「最後の一句」
出典:青空文庫