・・・……… ――――――――――――――――――――――――― 保吉は明後日の月曜日に必ずこの十円札を粟野さんに返そうと決心した。もう一度念のために繰り返せば、正にこの一枚の十円札である。と言うのは他意のある訣ではな・・・ 芥川竜之介 「十円札」
・・・安息日が過ぎて神聖月曜日が来たのだ。クララは床から下り立つと昨日堂母に着て行ったベネチヤの白絹を着ようとした。それは花嫁にふさわしい色だった。しかし見ると大椅子の上に昨夜母の持って来てくれた外の衣裳が置いてあった。それはクララが好んで来た藤・・・ 有島武郎 「クララの出家」
・・・即ち月曜日には孟子、火曜日には詩経、水曜日には大学、木曜日には文章規範、金曜日には何、土曜日には何というようになって居るので、易いものは学力の低い人達の為、むずかしいものは学力の発達して居るもののためという理窟なのです。それで順番に各自が宛・・・ 幸田露伴 「学生時代」
・・・当時一方には、日曜の翌日、すなわち月曜日というと三度に一度は必ず欠勤するという先生もいたので、田丸先生の精勤はかなり有名であった。 ある時熊本の町を散歩している先生の姿を見かけた記憶がある。なんでも袖の短い綿服にもめん袴をはいて、朴歯の・・・ 寺田寅彦 「田丸先生の追憶」
・・・私の方は太陰暦を使う関係上、月曜日が休みです。」 私はすっかり感心しました、この調子ではこの学校は、よほど程度が高いにちがいない、事によると狐の方では、学校は小学校と大学校の二つきりで、或はこの茨海小学校は、中学五年程度まで教えるんじゃ・・・ 宮沢賢治 「茨海小学校」
・・・ 七月○日 月曜日 暑し。 Yの発起で芝浦のお台場を見物に行く。芝浦から日覆いをかけた発動和船。海上にポツリと浮いたお台場、青草、太陽に照っている休息所の小さなテント。此方ではカフェー・パリスと赤旗がひらひらしている。市民の・・・ 宮本百合子 「狐の姐さん」
・・・今日は月曜日ですし、お仕事のある方はいらっしゃりにくかったわけですけれども、いま櫛田さんがおっしゃいましたように、わざわざ遠いところまで出ていらっしゃって、いろいろなお話をお聴きになりましたり、自分達でお話になることもよろしゅうございますけ・・・ 宮本百合子 「幸福の建設」
・・・ 二月四日 晴 月曜日 こんにちは! きのうの雪はいかがでしたか。おとといお目にかかった時は曇ってはいたがこんなに積ろうとは思いもかけませんでした。きょうは朝のうち『文芸』の随筆をかいて送って、それから雪どけの外気を家一ぱいに流しこ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・しかしバルザックはどういう風に出来るか。月曜日に毛糸の足袋と下着類と戦争論その他を入れます。私はこの頃になって、もう一遍一寸メーテルリンクをみて、何か発見して見たいと思うことがあります。それは、これまでの作家が運命というものについて、実に多・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 大劇場は、ふだんアイダや、サロメや、ボリス・ゴドノフを上演するところだ。月曜日にオペラの俳優達は、彼等の喉を休ませる。そこへ、今日は、モスクワでは珍しい日本女まで混えた大群集が六階の天辺のバルコニーまで、チェホフの「桜の園」を観よ・・・ 宮本百合子 「シナーニ書店のベンチ」
出典:青空文庫