・・・ 十月、十一月、十二月、僕はこの三月間は青扇のもとへ行かない。青扇もまたもちろん僕のところへは来ないのだ。ただいちど、銭湯屋で一緒になったことがあるきりである。夜の十二時ちかく、風呂もしまいになりかけていたころであった。青扇は素裸のまま・・・ 太宰治 「彼は昔の彼ならず」
・・・私は、人のちからの佳い成果を見たくて、旅行以来一月間、私の持っている本を、片っぱしから読み直した。法螺でない。どれもこれも、私に十頁とは読ませなかった。私は、生れてはじめて、祈る気持を体験した。「いい読みものが在るように。いい読みものが在る・・・ 太宰治 「碧眼托鉢」
・・・ 其年露西亜オペラは九月の下旬までおよそ一個月間興行していた。この間わたくしは毎夜怠らず聴きに往くに従って、初日の当夜経験したような感覚の混乱は次第に和げられて行くのを知った。音楽が誘いおこす幻想と周囲の実況とを全く分離せしめ、互に相冒・・・ 永井荷風 「帝国劇場のオペラ」
・・・小倉に来てから、始て纏まった一月間の費用を調べることが出来るのである。春を呼んで、米はどうなっているかと問うてみると、丁度米櫃が虚になって、跡は明日持って来るのだと云う。そこで石田は春を勝手へ下らせて、跡で米の量を割ってみた。陸軍で極めてい・・・ 森鴎外 「鶏」
出典:青空文庫