・・・子供の時に乳母に抱かれて、月蝕を見た気味の悪さも、あの時の心もちに比べれば、どのくらいましだかわからない。私の持っていたさまざまな夢は、一度にどこかへ消えてしまう。後にはただ、雨のふる明け方のような寂しさが、じっと私の身のまわりを取り囲んで・・・ 芥川竜之介 「袈裟と盛遠」
・・・八月二十六日 曇、夕方雷雨 月蝕雨で見えず。夕方珍しい電光 Rocket lightning が西から天頂へかけての空に見えた。丁度紙テープを投げるように西から東へ延びて行くのであった。一同で見物する。この歳になるまでこんなお光・・・ 寺田寅彦 「震災日記より」
・・・いつか「月蝕のときに、地球の半陰影が見えないのはなぜか」という問題が出た時、いろいろ考えたがよくわからず、結局何かだいぶ無理なこじつけを書いて出した。さて、その講評の日に、順次に他の問題について説明された後に、この半陰影の問題に移った。「諸・・・ 寺田寅彦 「田丸先生の追憶」
・・・「お母さん」や姉さんたち「お父さん」をもって暮している松山くにの胸の中には、やはり、十二の子供にはない思いが去来している。「お母さんの入室」「かいせん焼」「碁」「月蝕」「草履つくり」「着物のがら」「一本松」「目」「鼻」「悪口」「闇取引き」「・・・ 宮本百合子 「病菌とたたかう人々」
出典:青空文庫