・・・この哀れな有り様を見た若者は、群衆を憎らしく思いました。自分も困っていたのですけれど、まだわずかばかりの金を持っていましたので、その金の中から幾分かを、子供に恵んでやりました。子供は、たいそう喜んで幾たびも礼をいいました。そして、忘れまいと・・・ 小川未明 「あほう鳥の鳴く日」
・・・ 鳥屋の前に、二人の学生が立って、ちょっとその有り様を見てゆきすぎました。子供は、「なんというむごたらしいことだろう。」と、思いました。そして、自分も、学生の後ろについて、ゆきかかりますと、学生が、話をしていました。「鶏というやつは・・・ 小川未明 「あらしの前の木と鳥の会話」
・・・そして、この有り様を笑顔でながめていました。 昔、あのおじいさんは、自分の子供を、ちょうどあのように手を引いて、この道を歩いたことがあった。いまは、孫たちに手を引かれて、ああして歩いてゆく。「どうか、もう一度子供の時分になってみたい・・・ 小川未明 「幾年もたった後」
・・・よく、よく、この有り様を記憶しておいて、彼らに教えてやらなければならないなどと空想しました。 寒い冬が過ぎて、春になると、ほりばたの柳が芽をふきました。そして、桜の花が美しく咲きました。このころが、都もいちばんにぎやかな時分とみえて、去・・・ 小川未明 「馬を殺したからす」
・・・また、通りがかりに、この有り様を見た人の中には、拾ってやって、相手が盲目だから、かえって疑われるようなことがあってはつまらないと思ったり、また、中には、自分で後からきて銭を拾ってやろうと、よくない考えを抱いたような小僧などもありました。・・・ 小川未明 「海からきた使い」
・・・まだ、私は、これから先にも、いろいろのおもしろい有り様を見たり、話を聞くことができましょう――。「どうか、お日さま、私のお願いをきいてください。こうして、私はいま幸福な身の上でありますけれど、春がき、夏にもなると、ふたたびだれも私を振り・・・ 小川未明 「煙突と柳」
・・・ 学校の屋根に止まって、じっとこの有り様を見守っていたつばめがありました。つばめは、たいそうのどが渇いていました。つばめはよく、その子供がやさしい性質であるのを知っていました。「どうしたんですか。みんなが教室に入っているのに、あなた・・・ 小川未明 「教師と子供」
・・・その簡単な有り様は、太古の移住民族のごとく、また風に漂う浮き草にも似て、今日は、東へ、明日は、南へと、いうふうでありました。信吉はそれを見ると、一種の哀愁を感ずるとともに、「もっとにぎやかな町があるのだろう。いってみたいものだな。」と、思っ・・・ 小川未明 「銀河の下の町」
・・・この有り様を知ると花は、急に小さな心臓がとどろきました。しかし、ちょうは、ちっともそのことを知りませんでした。「ちょうさん、あなたのきれいな羽をお気をつけなさい。細い糸にかかりますよ。」と、花は、ちょうに注意をしました。 ちょうは、・・・ 小川未明 「くもと草」
・・・そのとき町の人々は、子供が泣きながら爺さんの手を引いて逃げようとして、爺さんが胡弓を振りあげて犬をおどしている有り様を見ても黙っていました。ある日町の人は二人を捕らえて、「おまえらは、どこからきたのだ。」といって聞きました。すると子・・・ 小川未明 「黒い旗物語」
出典:青空文庫