・・・僕が即今あらん限りの物を抛って、無一文の無産者たる境遇に身を置いたとしても、なお僕には非常に有利な環境のもとに永年かかって植え込まれた知識と思想とがある。外見はいかにも無一文の無産者であろうけれども、僕の内部には現在の生活手段としてすこぶる・・・ 有島武郎 「片信」
・・・その他、オランダにおいて、ドイツにおいて、多くの有利的事業は彼らによって起されました。旧き宗教を維持せんとするの結果、フランス国が失いし多くのもののなかに、かの国にとり最大の損失と称すべきものはユグノー党の外国脱出でありました。しかして十九・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・内枠だから有利だとしたり気にいってみても追っつかぬ位で、さすがの人々も今日は一番がはいるぞと気づいたが、しかしもうそろそろ風向きが変る頃だと、わざと一番を敬遠したくなる競馬心理を嘲笑するように、やはり単で来て、本命のくせに人気が割れたのか意・・・ 織田作之助 「競馬」
・・・ 故郷を捨てて東京に走り、その職業的有利さから東京に定住している作家、批評家が、両三日地方に出かけて、地方人に地方文学論に就て教えを垂れるという図は、ざらに見うけられたが、まず、色の黒い者に色の黒さを自覚させるために、わざわざ色白が狩り・・・ 織田作之助 「東京文壇に与う」
・・・乱世に於けるかかる形式は、自然と人民をして自ら治むることの有利にして且喫緊なことを悟らしめた。当時の外国貿易に従事する者は、もとより市中の富有者でもあり、智識も手腕も有り、従って勢力も有り、又多少の武力――と云ってはおかしいが、子分子方、下・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・誰だって同じ旅行が出来たら、あの男よりは有利にそれをし遂げるだろうに。 チルナウエルの旅程が遠くなればなる程、跡に残っている連中の悪口はひどくなる。もう幾月か立ったので、なんに附けても悪く言う。葉書が来ない。そりゃ高慢になった。来た。そ・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・その時代の環境のいかなる要素が彼らの生存に有利であったかがおもしろい問題である。 今から何万年の後に地球上の物理的条件が一変して再び犀かあるいは犀の後裔かが幅をきかすようになったとしたら、その時代の人間――もし人間がいるとしたら――の目・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・ これに比べて現代を取り扱った邦画はいくらか有利な地位にある。前記第一の点の不自然さから免れやすく、第四のセットに関してもおのずから無理のないものになりやすい傾向がある。従って見ていてたまらなく不快な破綻を感じる程度が剣劇に比して少ない・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・鋒先の後方へ向いた角では、ちょっと見るとぐあいが悪そうであるが、敵が自分の首筋をねらって来る場合にはかえってこのほうが有利であるかもしれない。 鰐と虎とのけんかも変わっている。両方でかみ合ったままで、ぐるりぐるりと腹を返して体軸のまわり・・・ 寺田寅彦 「映画「マルガ」に現われた動物の闘争」
・・・もっとも旋風は多くの場合に雷雨現象と連関して起こるから、その点で後に述べる時間分布の関係から言って多少この説に有利な点はある。しかしいわゆる光の現象やまた前述のまじないの意味は全くこれでは説明されない。 これに反して、ギバがなんらかの空・・・ 寺田寅彦 「怪異考」
出典:青空文庫