・・・が進歩すれば、政治でも経済でも人間に有利になるのが当然の帰結であると思われ、また一方芸術的に美しいものであるためには、その中に何かしら、ここでいわゆる「学」への貢献を含むということが必須条件であると思われるのである。一見いかに現在の道徳観を・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・ 営利会社の内部に設けられた研究室の研究員も、大体において、その会社に有利な結果の出そうな研究をするのが普通である。尤も、大戦前のドイツのある化学工業会社などでは、常に数十人の学者を養って、それに全く気儘な研究をさせたという話である。五・・・ 寺田寅彦 「学問の自由」
・・・ もし空想をたくましゅうすることを許されれば、最初は宗教的儀式としてやっていた事が偶然鐘の音に対してある有利な効果のある事を発見し、次いでそれが鋳物の裂罅から来る音響学的欠点を修正するためだということに考え及び、そうして今度は意識的にそ・・・ 寺田寅彦 「鐘に釁る」
・・・よく考えてみると人間の場合でも、各自が完全に自己を保存するように努力さえしていれば結局はすべての他のものの保存に有利であるという場合がかなり多いような気がする。人を苦しめ泣かせる行為は結局自分をいじめ殺す行為であるような気もするのである。・・・ 寺田寅彦 「沓掛より」
・・・従って天然界のある状態がその人間に有利なるか不利なるかは時と場所とによりて変化す。例えば水草を追って移牧する未開人にとりては時とともに利害の係る土地の範囲を移動す。また一つの都府の市民というごとき抽象的の団体を考うる時はその要素たる各個人と・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・この夕刊売りの娘を後に最後の瞬間において靴磨きのために最有利な証人として出現させるために序幕からその糸口をこしらえておかなければならないので、そのために娘の父を舞台の彼方で喘息のために苦悶させ、それに同情して靴磨きがたった今、ダンサーから貰・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
・・・あとで考えてみると、これは建物の自己週期が著しく長いことが有利であったのであろうと思われる。震動が衰えてから外の様子を見に出ようと思ったが喫茶店のボーイも一人残らず出てしまって誰も居ないので勘定をすることが出来ない。それで勘定場近くの便所の・・・ 寺田寅彦 「震災日記より」
・・・代々政治になれている特権者たちは、おだやかさを求めている人々の心を捕えて、自身の強権的な立場へ有利に利用するために、共産主義までをファシズムと同様に「全体主義」という新しい言葉でいいくるめています。 小泉信三氏の『共産主義批判の常識』の・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・「今年の宣伝のためにはこの恐慌はウンと有利だ」と。 作者の非プロレタリア的現実把握が微妙に右の一二行によって暴露されている。即ち、チャーリーの本当の気分は恐慌によって弱くなっているのだが、宣伝のためには有利だと、まるで第二インターナショ・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・が、どうかして物を買わなければならないというときに、自ら若い女性達は、自分が若い娘であるという一つの有利な条件を、自分で知ってか知らずかそれを愛嬌として使って、何となしに物をせしめるというような結果にもなるわけです。また大人が経済的に非常に・・・ 宮本百合子 「美しく豊な生活へ」
出典:青空文庫