・・・やはり世界有数であると私は思っている。小説は、少し下手だね。意あまって、絃響かずだ。彼は、続けて言う。「大芸術家とは、束縛に鼓舞され、障害が踏切台となる者であります。伝える所では、ミケランジェロがモオゼの窮屈な姿を考え出したのは、大理石・・・ 太宰治 「鬱屈禍」
・・・やはりあなたは有数の人物だと思いました。こんどは、もういいから、私にも誰にも、あんな長い手紙は書かないで下さい。閉口です。もう、わかりました。私は作品を書きます。書きます。こいつは、かなわんという気持で私は鞄にペン、インク、原稿用紙、聖書な・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・ 日本有数という形容は、そのまま世界有数という実相なのだから、自重しなければならぬ。 太宰治 「世界的」
熊本高等学校で夏目先生の同僚にSという○物学の先生がいた。理学士ではなかったがしかし非常に篤学な人で、その専門の方ではとにかく日本有数の権威者だという評判であった。真偽は知らないが色々な奇行も伝えられた。日本にたった二つと・・・ 寺田寅彦 「埋もれた漱石伝記資料」
・・・しかし書籍ならば大概のものは有数な古書籍店に頼んでおけばどこかで掘り出して来てもらえるようである。 それにしても神保町の夜の露店の照明の下に背を並べている円本などを見る感じはまずバナナや靴下のはたき売りと実質的にもそうたいした変わりはな・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・をのみこんでいて、従って新聞の与える知識には、いつでもある安全係数をかけた上で利用するから、あまりたいした弊害はないと考えられるかもしれない。有数ないい新聞ならば実際そうかもしれない。しかし正確でなくてもいいからできるだけ早く知るということ・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
・・・彼らは皆なこの土地において、有数な地位を占めている人たちであった。中には三十年ぶりに逢う顕官もあった。 私はY氏に桂三郎を紹介することを、兄に約しておいたが、桂三郎自身の口から、その問題は一度も出なかった。彼が私の力を仮りることを屑よし・・・ 徳田秋声 「蒼白い月」
・・・ だが、深谷は級友中でも有数の資産家の息子であった。それにしても盗癖は違う。いくら不自由をしない家の子でも、盗癖ばかりは不可抗的なものだ。だが、盗癖ならばまず彼がその難をこうむるべき手近にいた。且つ近来、学校中で盗難事件はさらになかった・・・ 葉山嘉樹 「死屍を食う男」
・・・しかるにかくのごとき曙覧をも古来有数の歌人として賞せざるべからざる歌界の衰退は、あわれにも気の毒の次第と謂わざるべからず。余は曙覧を論ずるに方りて実にその褒貶に迷えり。もしそれ曙覧の人品性行に至りては磊々落々世間の名利に拘束せられず、正を守・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・は全ソヴェト同盟内でも有数な金属工場だ。古いボルシェビキで、国内戦のときは、一方の指揮者となって戦ったプロレタリア作家タラソフ・ロディオーノフが、本気な顔をしているのは当然だ。 次の研究会までに、各職場の文学委員が、各自何人の文学衝撃隊・・・ 宮本百合子 「「鎌と鎚」工場の文学研究会」
出典:青空文庫