・・・ その人の生れたところの風土や、また生活状態等が文章と離れることのできない有機的関係を持つといわれるのも、考えれば、当然のことであります。私達はそこに、文章の面白味を知り、また個々の性格を知り多元的な生存の特質を知り、さらに人生の何たる・・・ 小川未明 「読むうちに思ったこと」
・・・彼によれば人間の目的は動物的有機体にもとづく快楽や、欲求を満足せしめることに存しない。人間の目的は神的意識の再現たる永久的自我を実現せしめることにある。社会を改善する目的も大衆に肉体的快楽、物的満足を与えるためではない。その各々の自我を実現・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・に、一つの映画ができあがるまでには実に門外漢の想像に余るような、たくさんの人々の分業的な労働を要するのである。そうしてそれが雑然たる群衆ではなくて、ほとんど数学的「鋼鉄的」に有機的な設計書の精細な図表に従って、厳重に遂行されなければならない・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・死んだ無機的団塊が統整的建設的叡知の生命を吹き込まれて見る間に有機的な機構系統として発育して行くのは実におもしろい見物である。 こういう場合に傍観者から見て最も滑稽に思われることは、この有機的体系の素材として使用された素材自身、もしくは・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・何となればそれは一つの整然たる有機的体系となるからである。 出来上がったものは結局「言語の糸で綴られた知識の瓔珞」であるとも云える。また「方則」はつまりあらゆる言語を煎じ詰めたエキスであると云われる。 道具を使うという事が、人間以外・・・ 寺田寅彦 「言語と道具」
・・・ 九 炭 木材を蒸焼にすると大抵の有機物は分解して一部は瓦斯になって逃げ出し、残ったのは純粋な炭素と灰分とが主なものである、これがすなわち木炭である。質の粗密によってあるいは燃え切りやす・・・ 寺田寅彦 「歳時記新註」
・・・今の日本は有機的の個体である。三分の一死んでも全体が死ぬであろう。 この恐ろしい強敵に備える軍備はどれだけあるか。政府がこれに対してどれだけの予算を組んでいるかと人に聞いてみてもよくわからない。ただきわめて少数な学者たちが熱心に地震の現・・・ 寺田寅彦 「時事雑感」
昔ギリシアの哲学者ルクレチウスは窓からさしこむ日光の中に踊る塵埃を見て、分子説の元祖になったと伝えられている。このような微塵は通例有機質の繊維や鉱物質の土砂の破片から成り立っている。比重は無論空気に比べて著しく大きいが、そ・・・ 寺田寅彦 「塵埃と光」
・・・帝展も一つの有機体であって生きているものである以上は去年と同じであるはずはない。「生きるとは変化する事である」という言葉が本当なら、今年は今年の帝展というものがなければならない。しかしこの有機体の細胞であり神経であるところの審査員や出品者が・・・ 寺田寅彦 「帝展を見ざるの記」
・・・この微妙な反応機巧は弦と弓とが一つの有機的な全系統を形成していて、そうして外部からわがままな無理押しの加わらない事が緊要である。しかし弓の毛にも多少のむらがあるのみならず、弓の根もとに近いほうと先端に近いほうとではいろいろの関係がちがうから・・・ 寺田寅彦 「「手首」の問題」
出典:青空文庫