・・・パウロの書翰は実に有益な書翰でありますけれども、しかしこれをパウロの生涯に較べたときには価値のはなはだ少いものではないかと思う。パウロ彼自身はこのパウロの書いたロマ書や、ガラテヤ人に贈った書翰よりもエライ者であると思います。クロムウェルがア・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・ひじょうに、有益な研究資料となるのです。私が、多年探していたものが手に入って、うれしいのです。」 そして、博士は、なにかお礼をしたいといいました。 信吉は、けっして、お礼などのことを考えていませんでした。「いいえ、お礼などいりま・・・ 小川未明 「銀河の下の町」
・・・故にその時代を見ようと思えば、当時の雑誌こそ、何より有益な文献でなければなりません。 この意味からいっても、同人雑誌は極めて有意義のものです。新しい芸術上の運動も、そのはじめは、同志の綜合であり、同人雑誌を戦闘の機関としなかったものはな・・・ 小川未明 「書を愛して書を持たず」
・・・ 私のこのような信念からは、青年学生への、実際的に有益な、恋愛についての心得を導き出すことは困難である。実際的とか、有益とかいう観念からして、もはや厳しい真理から逸れたものだからだ。 恋愛を一種の熱病と見て、解熱剤を用意して臨むこと・・・ 倉田百三 「学生と生活」
皆さん。浅学不才な私如き者が、皆さんから一場の講演をせよとの御求めを受けましたのは、実に私の光栄とするところでござります。しかし私は至って無器用な者でありまして、有益でもあり、かつ興味もあるというような、気のきいた事を提出・・・ 幸田露伴 「馬琴の小説とその当時の実社会」
・・・否、時には健康上有益である。しかし、諸君を真似て飲む中学生、又は労働者たちは自らを制することが出来ぬため、酒に溺れ、その為に身を亡す危険が多い。だから諸君は、彼等のために! 彼等のために酒を飲むな、と。彼等のため、ばかりではない。僕たちの為・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・金銭は、むだに使っても、それを受け取った人のほうで、有益に活用するであろう。料理の食べ残しは、はきだめに捨てるばかりである。完全に、むだである。私は目前に、むだな料理の山を眺めて、身を切られる程つらかった。この家の人、全部に忿懣を感じた。無・・・ 太宰治 「佐渡」
・・・一回の見事な実験はそれだけでもう頭の蒸餾瓶の中で出来た公式の二十くらいよりはもっと有益な場合が多い。やっと現象の世界に眼のあきかけた若いものの頭に公式などは一切容赦してやらねばいけない。公式は、丁度世界歴史の年代の数字と同様に、彼等の物理学・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・それを詮索するのは興味もあり有益な事でもあるが、それは作と作家の価値を否定する材料にはならなかった。要は資料がどれだけよくこなされているか、不浄なものがどれだけ洗われているかにあった。 作中の典拠を指摘する事が批評家の知識の範囲を示すた・・・ 寺田寅彦 「浅草紙」
・・・ こんな不満をいだいていたのであったが、近ごろは立派な有益な批評を書いて見せる批評家が輩出したようである。 以前は何か一つよい映画が出ると、その映画の批評については自分の見解だけが正しくて他の人の批評は皆間違っているかのようにたいそ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
出典:青空文庫