・・・ 向島のうら枯さえ見に行く人もないのに、秋の末の十二社、それはよし、もの好として差措いても、小山にはまだ令室のないこと、並びに今も来る途中、朋友なる給水工場の重役の宅で一盞すすめられて杯の遣取をする内に、娶るべき女房の身分に就いて、忠告・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・或る女学校では女生の婚約の夫が定まると、女生は未来の良人を朋友の集まりに紹介するを例とし、それから後は公々然と音信し往来するを許された。女流の英文学者として一時盛名を馳せたI夫人は在学中二度も三度も婚約の紹介を繰返したので評判であった。・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・この以後自分と志村は全く仲が善くなり、自分は心から志村の天才に服し、志村もまた元来が温順しい少年であるから、自分をまたなき朋友として親しんでくれた。二人で画板を携え野山を写生して歩いたことも幾度か知れない。 間もなく自分も志村も中学校に・・・ 国木田独歩 「画の悲み」
・・・ 故郷の朋友親籍兄弟、みなその安着の報を得て祝し、さらにかれが成功を語り合った。 しかるに、ただ一人、『杉の杜のひげ』とあだ名せられて本名は並木善兵衛という老人のみが次のごとくに言った。『豊吉が何をしでかすものぞ、五年十年のうち・・・ 国木田独歩 「河霧」
・・・竹内はそれと気がつき、「ウン貴様は未だこの方を御存知ないだろう、紹介しましょう、この方は上村君と言って北海道炭鉱会社の社員の方です、上村君、この方は僕の極く旧い朋友で岡本君……」 と未だ言い了らぬに上村と呼ばれし紳士は快活な調子で・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・かくて彼が心は人々の知らぬ間に亡び、人々は彼と朝日照り炊煙棚引き親子あり夫婦あり兄弟あり朋友あり涙ある世界に同居せりと思える間、彼はいつしか無人の島にその淋しき巣を移しここにその心を葬りたり。 彼に物与えても礼言わずなりぬ。笑わずなりぬ・・・ 国木田独歩 「源おじ」
・・・しかし君臣となり、親子、夫婦、朋友、師弟、兄弟となった縁のかりそめならぬことを思い、対人関係に深く心を繋いで生きるならば、事あるごとに身に沁みることが多く考え深くさせられる。対人関係について淡白枯淡、あっさりとして拘泥せぬ態度をとるというこ・・・ 倉田百三 「人生における離合について」
・・・ 強て何か話が無いかとお尋ねならば、仕方がありません、わたくしが少時の間――左様です、十六七の頃に通学した事のある漢学や数学の私塾の有様や、其の頃の雑事や、同じ学舎に通った朋友等の状態に就いてのお話でも仕て見ましょう。今でも其の時分の面・・・ 幸田露伴 「学生時代」
・・・ところが源三と小学からの仲好朋友であったお浪の母は、源三の亡くなった叔母と姉妹同様の交情であったので、我が親かったものの甥でしかも我が娘の仲好しである源三が、始終履歴の汚れ臭い女に酷い目に合わされているのを見て同情に堪えずにいた上、ちょうど・・・ 幸田露伴 「雁坂越」
・・・曲水山房主人孫氏は大富豪で、そして風雅人鑑賞家として知られた孫七峯とつづき合で、七峯は当時の名士であった楊文襄、文太史、祝京兆、唐解元、李西涯等と朋友で、七峯のいたところの南山で、正徳十五年七峯が蘭亭の古のように修禊の会をした時は、唐六如が・・・ 幸田露伴 「骨董」
出典:青空文庫