・・・ 曳いて来たは空車で、青菜も、藁も乗って居はしなかったが、何故か、雪の下の朝市に行くのであろうと見て取ったので、なるほど、星の消えたのも、空が淀んで居るのも、夜明に間のない所為であろう。墓原へ出たのは十二時過、それから、ああして、ああし・・・ 泉鏡花 「星あかり」
・・・大隠は朝市に隠る、と。」先生は少し酔って来たようである。「へへ、」大将はあいまいに笑った。「まあ、ご隠居で。」「手きびしい。一つ飲み給え。」「もうたくさん。」大将は会釈をして立ち上りかけた。「それでは、これで失礼します。」「・・・ 太宰治 「黄村先生言行録」
・・・それから朝市の大きな西瓜、こいつはごろごろして台へ載りにくかったのをようやくのせると、神様へ尻を向けているのは不都合じゃと云い出してまた据え直す。こんな事でとうとう昼飯になった。食事がすんでそこらを片付けるうち風呂がわいたから父上から順々に・・・ 寺田寅彦 「祭」
出典:青空文庫