・・・おったのみならずこの先も留学期限のきれるまではここにおったかも知れぬのである。しかるにここに或る出来事が起っていくらおりたくっても退去せねばならぬ事となった、というと何か小説的だが、その訳を聞くとすこぶる平凡さ。世の中の出来事の大半は皆平凡・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・ だが、掘鑿は急がれているのだ。期限までに仕上ると、会社から組には十万円、組から親方には三万円の賞与が出るのだ。仕上らないと罰金だ。 何しろ、ポムプへ引いてある動力線の電柱が、草見たいに撓む程、風が雪と混って吹いた。 鼻と云わず・・・ 葉山嘉樹 「坑夫の子」
・・・先生は此有様を見て恰も強有力なる味方を得たるの思いして、愉快自から禁ずる能わざると同時に、又一方を顧みれば新条約実施の期限は本年七月と定まり、僅々一年の後には外国人も内地に雑居して日本人と郷党隣人の交際を為すに至る可しと言う。従来の儘なる我・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・ やがて予定の伯林滞在の期限がすんで、ケーテ・シュミットは故郷のケーニヒスベルクへかえってきた。シャウフェルは、父親に、ケーテが完成するまで自分の画塾に止るようにすすめたが、それが実現しないうちに、シャウフェル自身がイタリーのフローレン・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・と言った。期限が来て、巨人にこの答えを申しますと、巨人は非常に驚いて「人間の男にそういうことがわかろう筈がない。これは一番の根本問題で、人間の男に、女が求めているのが独立であるということがわかるはずがない。きっと誰かに教わっただろう」と言い・・・ 宮本百合子 「幸福について」
・・・と自身のファッショ化期限を決めている。この直木の態度と犬養健の態度との間には何処やら共通の一応の悧口さと基礎的な愚さとがある。 犬養健も『白樺』へ小説を書いていた時は、人道主義的作家であった。ところが大人になるにつれて人道主義のヤワイこ・・・ 宮本百合子 「ブルジョア作家のファッショ化に就て」
出典:青空文庫