・・・ユトランドの荒地より建築用の木材をも伐り得んとのダルガスの野心的欲望は事実となりて現われませんでした。樅はある程度まで成長して、それで成長を止めました、その枯死はアルプス産の小樅の併植をもって防ぎ得ましたけれども、その永久の成長はこれによっ・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・ バラックだが、安っぽい荒削の木材の生なましさや、俗々しいペンキ塗り立ての感じはなく、この界隈では垢抜けした装飾の店だった。 豹吉はハナヤの前で再び腕時計をみた。十時……。「丁度だ」 はいろうとした途端、中から出て来た一人の・・・ 織田作之助 「夜光虫」
・・・まじい音をたてて、まるつぶれにたおれて、ぐるり一ぱいにもうもうと土烟が立ち上る、附近の空地へにげようとしてかけ出したものの、地面がぐらぐらうごくので足がはこばれない、そこへ、あたり一面からびゅうびゅう木材や瓦がとびちって来るので、どうするこ・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・ 九 炭 木材を蒸焼にすると大抵の有機物は分解して一部は瓦斯になって逃げ出し、残ったのは純粋な炭素と灰分とが主なものである、これがすなわち木炭である。質の粗密によってあるいは燃え切りやす・・・ 寺田寅彦 「歳時記新註」
・・・おおかた葉をふるうた桜の根には取りくずした木材が乱雑に積み上げられて、壁土が白く散らばった上には落葉が乱れている。模造日本橋は跡方もなくなって両側の土堤も半ば崩れたのを子供等が駆け上り駆け下りて遊んでいる。観覧車も今は闃として鉄骨のペンキも・・・ 寺田寅彦 「障子の落書」
・・・ 三 運慶が木材の中にある仁王を掘り出したと云われるならば、ブローリーやシュレディンガーは世界中の物理学者の頭の中から波動力学を掘り出したということも出来るであろう。「言葉」は始めから在る。それを掘り出すだけ・・・ 寺田寅彦 「スパーク」
・・・ 小川町で用を足して帰りにまたそこを通った。木材を満載したその荷馬車の車輪が道路の窪みの深い泥に喰い込んで動かなくなったのを、通行人が二人手を貸して動かそうとしていた。やっと動き出したので手をはなすと、馬士一人の力ではやはり一寸も動かな・・・ 寺田寅彦 「断片(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・近辺の台所を脅かしていた大きな黒猫が、縁の下に竹や木材を押し込んである奥のほうで二匹の子を育てていた。一つは三毛でもう一つはきじ毛であった。 単調なわが家の子供らの生活の内ではこれはかなりに重大な事件であったらしい。猫の母子の動静に関す・・・ 寺田寅彦 「ねずみと猫」
・・・じつはあなたもご承知でしょうが、あの林の中でわたくしが社長になって木材乾溜の会社をたてたのです。ところがそれがこの頃の薬品の価格の変動でだんだん欠損になって、どうにもしかたなくなったのです。わたくしはいろいろやって見ましたがどうしてもいけな・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・ 今が今まで見たこともない製材工場へやって来て、巨大な、精緻な機械が、梁みたいに大きな木材を片はじからパンのように截って廻っているのを目撃したら、誰しも感歎する。 やがて職業意識をとり戻し、彼は、わきに案内役をしている工場新聞発行所・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
出典:青空文庫