・・・いつかは第四階級はそれを発揮すべきであったのだ、それが未熟のうちにクロポトキンによって発揮せられたとすれば、それはかえって悪い結果であるかもしれないのだ。第四階級者はクロポトキンなしにもいつかは動き行くべき所に動いて行くであろうから。そして・・・ 有島武郎 「宣言一つ」
・・・お前たちがこの書き物を読んで、私の思想の未熟で頑固なのを嗤う間にも、私たちの愛はお前たちを暖め、慰め、励まし、人生の可能性をお前たちの心に味覚させずにおかないと私は思っている。だからこの書き物を私はお前たちにあてて書く。 お前たちは去年・・・ 有島武郎 「小さき者へ」
・・・だから私は第四階級の思想が「未熟の中にクロポトキンによって発揮せられたとすれば、それはかえって悪い結果であるかもしれない」といったのだった。そして「クロポトキン、マルクスたちのおもな功績はどこにあるかといえば……第四階級以外の階級者に対して・・・ 有島武郎 「片信」
・・・――たった今、その美しい奥方様が、通りがかりの乞食を呼んで、願掛は一つ、一ヶ条何なりとも叶えてやろうとおっしゃります。――未熟なれども、家業がら、仏も出せば鬼も出す、魔ものを使う顔色で、威してはみましたが、この幽霊にも怨念にも、恐れなされま・・・ 泉鏡花 「山吹」
・・・ とにかく去年から今年へかけての、種々の遭遇によって、僕はおおいに自分の修業未熟ということを心づかせられた。これによって君が僕をいままでわからずにおった幾部分かを解してくれれば満足である。・・・ 伊藤左千夫 「去年」
・・・が妻のためにとて求め来たりし育児に関する書籍などを妻はまだろくろく見もせぬうちに、母上は老眼に眼鏡かけながら暇さえあれば片っ端より読まれ候てなるほどなるほどと感心いたされ候ことに候、右等の事情より自然未熟なる妻の不注意をはなはだ気にしたもう・・・ 国木田独歩 「初孫」
・・・釣れないというと未熟な客はとかくにぶつぶつ船頭に向って愚痴をこぼすものですが、この人はそういうことを言うほどあさはかではない人でしたから、釣れなくてもいつもの通りの機嫌でその日は帰った。その翌日も日取りだったから、翌日もその人はまた吉公を連・・・ 幸田露伴 「幻談」
・・・勿論未熟者という意味のボク釣師と自ら言ったのは謙遜的で、内心に下手釣師と自ら信じている釣客はないのであるし、自分もこの二日ばかりは不結果だったが、今日は好い結果を得たいと念じていたのである。 場処へ着いた。と見ると、いつも自分の坐るとこ・・・ 幸田露伴 「蘆声」
・・・とは、私より年下の友だちで、日ごろ次郎のような未熟なものでも末たのもしく思って見ていてくれる美術家である。「今ある展覧会も、できるだけ見て行くがいいぜ。」「そうだよ。」 と、また次郎が答えた。 五月にはいって、次郎は半分引っ・・・ 島崎藤村 「嵐」
このごろ時々写真機をさげて新東京風景断片の採集に出かける。技術の未熟なために失敗ばかり多くて獲物ははなはだ少ない。しかし写真をとろうという気で町を歩いていると、今までは少しも気のつかずにいたいろいろの現象や事実が急に目に立・・・ 寺田寅彦 「カメラをさげて」
出典:青空文庫