・・・ 新旧思想の衝突という事を文人の多くは常に口にしておるが、新思想の本家本元たる文人自身は余り衝突しておらぬ。いつでも旧思想の圧迫に温和しく抑えられて服従しておる。文人は文人同志で新思想の蒟蒻屋問答や点頭き合いをしているだけで、社会に対し・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・わしなんかは、自由思想の本家本元は、キリストだとさえ考えている。思い煩うな、空飛ぶ鳥を見よ、播かず、刈らず、蔵に収めず、なんてのは素晴らしい自由思想じゃないか。わしは西洋の思想は、すべてキリストの精神を基底にして、或いはそれを敷衍し、或いは・・・ 太宰治 「十五年間」
・・・ 新思想の本元の西洋へ行って見ると、かえって日本人の目にばかばかしく見えるような大昔の習俗や行事がそのままに行なわれているのはむしろ不思議である。 これはどちらがいいか、議論をするとわからなくなるにきまっている。 ただこのごろの・・・ 寺田寅彦 「田園雑感」
・・・この言葉の意味については本家本元の二人の間にも異論があるそうであって、これについては近ごろの読売新聞紙上で八住利雄氏が紹介されたこともある。 このモンタージュなるものは西洋人にとってはたしかに非常な発見であったに相違ない。そうしてこれに・・・ 寺田寅彦 「ラジオ・モンタージュ」
・・・其文に曰く、「草津とし云へば臭気も名も高き、其本元の薬湯を、ここにうつしてみつや町に、人のしりたる温泉あり。夏は納涼、秋は菊見遊山をかねる出養生、客あし繁き宿ながら、時しも十月中旬の事とて、団子坂の造菊も、まだ開園にはならざる程ゆゑ、この温・・・ 永井荷風 「上野」
・・・そして本家本元のソヴェト同盟では厳密に批判され、本屋に本も出ていないようなコロンタイズムが流布することを知って、非常に苦しいような驚いた心持がしたのを今もはっきり覚えている。 コロンタイズムは、全く一九一七年から二三年間の混乱期にふるい・・・ 宮本百合子 「新しい一夫一婦」
出典:青空文庫