・・・古い説かも知らんが私の知ってる限りじゃ、今迄の美学者も実感を芸術の真髄とはせず、空想が即ち本態であるとしている。この空想とは、例の賊に追われたことを後から追懐する奴なんだ。そうすると小説は第二義のもので、第一義のものじゃなくなって来る。否、・・・ 二葉亭四迷 「私は懐疑派だ」
・・・女にとって一番の困難は、いつとはなし女自身が、その女らしさという観念を何か自分の本態、あるいは本心に附随したもののように思いこんでいる点ではなかろうか。自身の人生での身ごなし、自身のこの社会での足どりに常に何か女らしさの感覚を自ら意識してそ・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
・・・ぼんやりと、自分でもその本態をはっきりつかめずに幸福や安らかさを思っている心を、幸福の手紙が、却って凶悪のはっきりした予告でおどろかして、一つの手紙も書くという行動に動かして行くところは、なかなか心理的である。このことは、皆が、不幸とか災難・・・ 宮本百合子 「幸運の手紙のよりどころ」
・・・きりに小説に書くばかりで、同じ日本の今日の空の下に働いている若い同胞のよろこび、悲しみ、あるいはそれをさえ溌剌とは表現しない生活のありようというものについて全く無頓着であるとすれば、それは明かに文化の本態の一つの畸型である。逆から見て、働く・・・ 宮本百合子 「婦人の文化的な創造力」
・・・認識活動の本態は感覚ではないからだ。だが、認識活動の触発する質料は感覚である。感覚の消滅したがごとき認識活動はその自らなる力なき形式的法則性故に、忽ち文学活動に於ては圧倒されるにちがいない。何ぜなら、感覚は要約すれば精神の爆発した形容である・・・ 横光利一 「新感覚論」
出典:青空文庫