・・・灰色の天地に灰色の心で、冷たい、物凄い、荒んだ生を送って行くのが人生の本旨かとも思って見る。けれども今日までの私はまだどうもそれだけの思いきりもつかぬ。一方には赤い血の色や青い空の色も欲しいという気持が滅しない。幾ら知識を駆使して見てもこの・・・ 島村抱月 「序に代えて人生観上の自然主義を論ず」
・・・ 第三十八段、名利の欲望を脱却すべきを説く条など、平凡な有りふれの消極的名利観のようでもあるが、しかしよく読んでみると、この著者の本旨は必ずしも絶対に名利を捨てよというのではなく、「真の名利」を求めるための手段として各人の持つべき心掛け・・・ 寺田寅彦 「徒然草の鑑賞」
・・・えらい見方をして人事に対するのが写生文家だと云う意義に解釈されては余の本旨に背く。えらい、えらくないは問題外である。ただ彼らの態度がこうだと云うまでに過ぎぬ。 この故に写生文家は自己の心的行動を叙する際にもやはり同一の筆法を用いる。彼ら・・・ 夏目漱石 「写生文」
・・・例の放蕩息子を迎えた父のように、いかなる愚人、いかなる罪人に対しても弥陀はただ汝のために我は粉骨砕身せりといって、これを迎えられるのが真宗の本旨である。『歎異抄』の中に上人が「弥陀の五劫思惟の願をよくよく案ずればひとへに親鸞一人がためなりけ・・・ 西田幾多郎 「愚禿親鸞」
・・・これをもって教育の本旨とするは当らざるに似たれども、人生発達の点に眼を着すれば、この疑を解くに足るべし。そもそも人生の智識、未だ発せざるに当りては、心身の働、ただ形体の一方に偏するを常とす。いわゆる手もて口に接する小児の如き、これなり。野蛮・・・ 福沢諭吉 「教育の目的」
・・・かくの如く学校の本旨はいわゆる教育にあらずして、能力の発育にありとのことをもってこれが標準となし、かえりみて世間に行わるる教育の有様を察するときは、よくこの標準に適して教育の本旨に違わざるもの幾何あるや。我が輩の所見にては我が国教育の仕組は・・・ 福沢諭吉 「文明教育論」
・・・然れども貴下の行動は恐らく本心より出でたるものにあらざるべしと思慮致候に付来る七日迄に復職願い出でられたる場合においては、当局々員として適当と認めたる時は実施案の本旨に鑑み特に今回にかぎり右処分を取消すことも有之べく念のため申添候。・・・ 宮本百合子 「電車の見えない電車通り」
出典:青空文庫