・・・しかし「スタンダールやバルザックの文学は結局こしらえものであり、心境小説としての日本の私小説こそ純粋小説であり、詩と共に本格小説の上位に立つものである」という定説が権威を持っている文壇の偏見は私を毒し、それに、翻訳の文章を読んだだけでは日本・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・文学鑑賞は、本格的であった。実によく読む。洋の東西を問わない。ちから余って自分でも何やら、こっそり書いている。それは本箱の右の引き出しに隠して在る。逝去二年後に発表のこと、と書き認められた紙片が、その蓄積された作品の上に、きちんと載せられて・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・文学鑑賞は、本格的であった。実によく読む。洋の東西を問わない。ちから余って自分でも何やら、こっそり書いている。それは本箱の右の引き出しに隠して在る。逝去二年後に発表のこと、と書き認められた紙片が、その蓄積された作品の上に、きちんと載せられて・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・こういう本格的な研究仕事を手伝わされたことがどんなに仕合せであったかということを、本当に十分に估価し玩味するためにはその後の三十年の体験が必要であったのである。 たしか三年の冬休みに修善寺へ行ってレーリーの『音響』を読んだ。湯に入り過ぎ・・・ 寺田寅彦 「科学に志す人へ」
・・・しかし、男のほうはもちろん女のほうもすっかり板についた登山服姿であり、靴などもかなり時代のついた玄人のそれであり、またそれを踏みしめ踏みしめ登って行く足取りもことごとく本格的らしいので、あれは大丈夫だろうということになったのであった。われわ・・・ 寺田寅彦 「小浅間」
・・・の効能に関する本格的な研究に着手し、ある黒焼きを家兎に与えると血液の塩基度が増し諸機能が活発になるが、西洋流のいわゆる薬用炭にはそうした効果がないという結果を得たということが新聞で報ぜられた。自分の夢の実現される日が近づいたような喜びを感じ・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・切り抜きをなくしたので、どんな事を書いたか覚えていないが、しかし相撲四十八手の裏表が力学の応用問題として解説の対象となりうることには違いはないので、その後にだれか相撲好きの物理学者が現われ、本格的な「相撲の力学」を研究し開展させて後世に対す・・・ 寺田寅彦 「相撲」
・・・僕のやうな人間が、もし自然のままの傾向で惰力して行つたら、おそらく辻潤や高橋新吉のやうな本格的のダダイストになつたにちがひない。それが幸ひ一つの昂然たる貴族的精神によつて、今日まで埋没から救はれてるのは、ひとへに全くニイチェから学んだ訓育の・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
・・・その前後に、これまでは決して插画を描かなかった小村雪岱、石井鶴三、中川一政などという画家たちが、装幀や插画にのり出して来て、その人々のその種の作品は、本格的な画家であるが故に珍重されつつ、その半面ではそのことで彼等の本格の仕事に一種派手やか・・・ 宮本百合子 「おのずから低きに」
・・・を忘れ「物語を構成する小説本来の本格的なリアリズムの発展」を阻害した、と観察された。そして、従来、純文学と通俗小説との区別のために重要なモメントとされて来た文学的現実内における偶然と必然という問題を、次のように解決しようとした。 人間を・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
出典:青空文庫